「エアー、おいでー」
お風呂上り、湿った髪の毛をタオルで挟んでいると、アイツが突然呼んできた
「むむ……」
パッと自分の格好を見て、変なところがないか確かめる。よし、ちゃんと寝巻きは着たし、自慢の銀髪は少ししか湿ってない、お肌のケアもした
アイツに恥ずかしい姿は見せられないのだ、これ以上の弱みを握られてしまうとたまったものじゃないもの
「ふん、なにかしら」
リビングのソファーにニコニコと座っていたアイツは手招きをしてこちらを誘う
「今日はいいものを見つけたんだ。みてごらん」
サッとそいつが差し出したのは、白いフワフワが片側につき、もう片方はほんの小さなスプーンのような木の棒だ
「なにこれ」
「これはみみかき。ジパングからの輸入品でね、これで耳の中を掃除するんだよ」
自慢げに語られても困る。アンタは買っただけで、作ったわけじゃないだろう
「で、これがなによ」
「やったげる。こっちおいで」
「はぁー?」
突然何を言いだすのだ。耳なんてところをこんなやつに触られてたまるか!
「いいじゃないか、痛くしないって約束する!明日はエアーの大好きなスープを作ってあげるからさ」
「む……」
悔しいが、私は今こいつに生活の全てを依存している
お金はなく、道具もなく、力もない。この辺りには集落はないし(あっても人間の集落なんてごめんだけど)、森に戻ることはできない
そんなこいつが、私の好きな森の幸満載なスープを作るというのだ
「約束よ」
「絶対守るさ」
「仕方ないわね、さっさとやりなさいよ」
しょーがなく、しょおおぉーーがなく、ソイツに私は耳を向けた
「……」
「なによ、早くしなさいよ」
「いや、エアー、ここに寝っ転がってもらわないとあぶないよ」
事もあろうか、こいつは耳をいじる上に膝の上に私の頭を載せるという
「できるわけないじゃない!このケモノー!」
「でも危ないし……あと多分、ケダモノ?」
「わ、わざとまちがえたのよ!」
とにかくこんな恥ずかしいことはやっ!でも、スープ……木の実や、キノコ、お野菜たっぷりのクリームスープ……それに白パンをひたして……
「し、し、しかたがないわね、変なとこ触ったら叩くんだから!」
「大丈夫だってばー」
おずおずと私はこのけだものの膝に頭を乗せ、耳を顔の方に向けた
肩に大きな手が置かれ体が固定される
「じゃあ行くよ、力を抜いてね」
「ふん、ミミカキだかなんだかしらないけど、そんなものに絶対負けないもん!」
はぁとーーーーはぁとーーーーはぁと
「んきゅうううぅぅ……」
わたしはすっかり耳に走るかんかくのとりこになっていた
「あ、大きいのあった。みみ、つまむね」
「はひゃああぁ……」
大きなゆびで、きゅっと耳先をつままれた、先っぽはびんかんなのに……おもわずふかく息をはいてしまう
「んー、なかなかとれない」
「ん、あぁ、あ、あっ」
耳の中に張り付いた耳あかを、イタくしないようにとやさしくコリコリとかかれる
そのたびに背すじやこしをなでられたみたいなかんかくがして、でも力が抜けてて反応できない
ただ、息をあらげてかおを赤くするしかできない
「……むむ、ちょっとごめんね、スー……ふぅぅぅぅ」
「くひゃ、やうぅぅぅぅ……」
ゾワゾワっとした。生あったかいと息が耳の中に吹き付けられる、こんなことに、なんのいみがあるかわからない、でもなんか、すごく……
「あ、でてきたでてきた……とりゃ」
「んにゅぁっ」
へんな声が出ちゃった、あわてて口をおさえるけど、何かがペリッとはがれたかんかくのせいで体があらいこきゅうでゆれてしまう
「じゃ、あとは、えい」
「ひやあっ」
いきなり、ごそごそっと、わかくさをみみにつめこまれたかんかく、そして
「ごそごそごそごそ〜……」
「あっ、あああぁ〜…」
ほそくやわらかいポフポフが、穴の中をかき混ぜるかんかくに、わたしはもう、とりこにされてしまった……
「よし、じゃあもう片方の耳もやるよー」
ああ、いまみたいなのがもうかたっぽの耳にまで……
数日後
「み、耳かきやらせてやってもいいわよ!」
「このまえやったばかりだろう?」
「な、なによ!私の言うこと聞かないの!?」
まったくこいつは、なんて生意気な人間なのだ!
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