悪魔に沈む

 彼女欲しい。
 彼女欲しい。
 可愛い彼女が超欲しい。
 彼女いない歴=年齢な俺。そろそろ彼女が欲しい。このうだるような夏を燃えるような夏にしたい。せっかくの夏休みにずっと家に引きこもっていたくない。
 今日こそ彼女をゲットして、ムフフな夏休みを謳歌する!
 欲望全開、下心フルスロットル、滾る血潮を漲らせ、俺は海に来た! ……のだけど。
「ごくり……」
 いやいやいや、正直この展開は一切期待してませんでした。絶対ありえないでしょ。きっと夢に違いない。
「もう、ぼうっとしないの。ほらぁ、早く塗って」
 ムチムチナイスバディのお姉さんが俺を誘っているのだ。白い砂浜に突き挿したパラソルの下、レジャーシートの上で俯せになりながら。
 なんでどうしてこうなった?
 淡い妄想を抱きつつもその実、俺なんてどうせと諦めていた。彼女を作るどころかナンパすら夢のまた夢。声かけた瞬間鼻で笑われて砂でもかけられるのがオチだと思っていたのに。
 宝くじで一等当てるとか、落雷に当たるとか、墜落する飛行機に乗り合わせるとかそういうレベルじゃあない。
 まさしく悪魔の所業。悪魔が憑いている。ありえないことはたいてい悪魔の仕業。それを俺は今日確信した。
「あら、もしかして塗るんじゃなくて、塗られたいの?」
 だって、いやらしく笑んでいるこの人自体が悪魔だし。
 角も翼も尻尾も持つ、青い肌の悪魔だし。
 女は悪魔のような奴だって耳にしたことはあったけど、俺を誘惑するこの女性は悪魔。本物のデーモンだったのだ。


 彼女を見つけたのは偶然だった。いや、血眼で可愛い娘を探していたから必然だったのかもしれない。
 海を楽しむ海水浴客でいっぱいのビーチ。白い砂浜に照り返す日差しに汗を流しながら、きょろきょろと視線をあちらこちらへと泳がせて歩く俺。違和感に気づくのはすぐのことだった。
 青い肌である。真っ青。空よりも海よりも青いのである。一瞬パラソルの影だからと見逃しそうになった。しかし、完全に青だった。そんな青が人の形をしてビーチで寝転がっていたら、当然視線はそこに吸い寄せられる。さらに角と翼、尻尾までとあれば、視線が釘付けになるのも仕方ない。
 ましてや、それがまた絶世を通り越した超美人ともなれば、興奮で思考がショートして、見ていたことがあっさりバレるのも仕方ない。
「あら、あなた。ふふ、ワタシのこと視えてるのね」
 白目の部分が黒く、瞳は紅い。そんな人ならざる妖しげな眼を輝かせてその悪魔は笑い、どこか含みのある声音で俺のことを誘った。
「ねぇ、良かったらワタシの身体にオイル塗ってくれない?」
 本当に突然の申し出。しかしそれ以上に驚いたのは悪魔の女の人の次の行動。
 黒いビキニのブラ紐をほどいて、豊満なおっぱいをたゆんと揺らしたのだ。乳首は薄い白っぽい水色をしていて、その人ならざる色が逆にエロさを引き立てている。
「ちょ、ちょっと、その周りの人に見られ」
「じゃあ、あなたが隠して。ほら、こっち」
 このときこそ俺が逃げ出せる最後のチャンスだったのかもしれない。だが俺はもう、完全に彼女に魅了され尽くしていた。
 手招きする彼女の元に一歩踏み出し、誘われるがまま俺はパラソルの下に潜り込んだ。自分から悪魔に囚われにいってしまったのだ。
「え、えっとあの、あの、あなたは」
 胸をはだけた女性と話す経験なんて一度たりともない。自分でも笑えるくらい言葉がつっかえる。
「ワタシはフラウロス。フラウでいいわ」
「が、外国人?」
「ふふ、そうねぇ、とぉっても遠いところから来たわ」
 パラソルの影の一番端っこ。肘をついてくつろぐフラウさんの長い足の横に正座で俺は座る。
「遠慮しないでもっと近くに寄ってもいいのよ?」
「いや、でも」
「そうしないと誰かに見えちゃうわ、ワタシのち・く・び」
「ッ!?」
 まるで耳元で囁かれのかと錯覚した。艶めかしい薄い青の唇から紡がれる言葉の一文字一文字が言霊でも宿っているかのようにいやらしい。
 いやもう、この人(?)存在自体がいやらしい!
 姿形は悪魔なのに怖さなんて微塵もない。むしろエロい。エロすぎる。エロしかない。
「ふふ、初々しくて素敵。ねぇアナタの名前教えて?」
「あ、えっと小路重(こうじ・かさね)です。綾小路の小路に、重ねるで重です」
「カサネ……ふふ路(みち)が重なる、ね。いい名前」
 変わった名前だとよく言われるけど、褒められるのは素直に嬉しい。
「そ、そのフラウロスさんは」
「フラウでいいわ。カサネ」
 いきなりである。こんな超絶美人な年上お姉さんに下の名前を呼び捨てにされるのである。ドキッとしないわけがあろうか。いや、ない。
 深呼吸。一回、二回、三か……っ、良い匂いがする。やばい、甘酸っぱいような頭がくらくらするような匂い。十中八
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