第四車両「カタカタトレイン」

 一年ぶりの戦場、戦果は上々だった。
 混雑した電車の横広の座席に座り、俺は膝上に置いたリュックに詰め込まれた戦利品の山を見てニヤリと笑む。
 おっと危ない危ない。こんなだらしない、緩みきった顔を見られれば奇異な目で見られるのは必至だ。ソレが何かを考えればなおのことだ。
 だがしかし、顔が緩むのを止めるのはやはりできそうにない。戦場でこれほどの戦果をあげて家に帰れるのだから。
 家に帰り、戦利品を床に並べて写真を撮って、ひとつずつゆっくりと堪能できるとあれば顔も緩むというものだ。ここにあるのはほんの一部。持ちきれない戦利品はすでに家に配送済み。全く楽しみでしかたない。
 戦利品。それはつまるところ、国内最大規模の同人誌即売会で勝ち取った同人グッズ諸々のことである。
 同人誌しかり、同人ゲームしかり、ポストカードやポスター、フィギュアだけに留まらず、実用性に優れたグラスやペンケースなどのグッズも様々である。
 内容はまぁ、俺から見ても偏っていると断言できる。
 ロリータものがメインだ。少女がメインだ。身体の小さな女の子がメインだ。
 幼女だ。
 ちっぱいだろうとロリ巨乳だろうとなんでもござれ。ロリっぱいに貴賎なし。
 ロリ学生・ロリ校生・ロリ大生の三姉妹ハーレムに始まり、「のじゃロリ魔法少女バフォちゃん」と「魔女っ子メリー」のコラボ全国ロリ布教の旅とか、人間魔物娘問わず大量買いだ。
 幼女はイイモノだ。俺の心を癒してくれる。純粋無垢な穢れのない表情。染み一つない、吸い付くような肌。抱きしめれば壊れてしまいそうなほど華奢な身体は、俺の保護欲を抑えようもなく駆り立ててくる。小さな手で握り返してくる、儚くもしかし確かな感触は、言いようのない安らぎを与えてくれる。
 まぁ、幼女と手を繋いだことなんてないけど。
 はっはっは。万年フリーターの俺が幼女と手を繋ぐなんて事案あるわけなかろう。
 と、言いたいところだが、最近はそうでもない。何年か前に異世界から魔物娘とやらがやってきて、世間の幼女事情も一切合切変わってしまった。
 人間の幼女といかがわしいことをするのは合意の上であろうとも違法であるが、魔物娘の幼女となら合意の上でなら何でもしていい。文字通りなんでもだ。孕ませたって構わないのである。ロリ母娘丼にしてもいいのである。そのせいで自分から魔物化する幼女もいるとかいないとか。
 なんというロリコン歓喜の世界になってしまったことだ。
 嘆かわしい。ああ嘆かわしい。羨ましくもなんともないぞ。
 即売会の会場でも幾人もの同胞が妖女(誤字ではない)たちの餌食となってしまったが、別に俺は彼女たちのお眼鏡に適わなかったわけではない。俺の幼女を想う真の紳士の心が魔物たちを寄せ付けなかっただけなのだ。負け惜しみではない。
 そうだとも。ロリとはあくまで二次だからこそよいのだ。人の夢と書いて儚いと読むように。幼女を分解すれば幻ノ女となる。そう、本当の幼女はこの世には存在しないのだ。存在しないからこそ、人は、俺たちロリコンは求める。儚き幻想に形を与え、成長することのない穢れない幼女を求めるのである。
 求めた結果、白濁まみれな幼女になることもあるがそれもご愛嬌だ。
 魔物娘ならずっと幼女のままいられるがそれもご愛嬌だ。ぐぬぬ。
「はぁ…………ん?」
 ふと、俺は左の方へ視線を向ける。
 人。人。人。電車に揺られるむさくるしい人溜まり。
 冷房なんて効いていないような熱気が漂う薄暗い電車内。
 人の陰りは空気を鈍重で閉塞的なものへと塗り替えている。
 この電車の行き先は地底深く暗澹としたものであるかのように皆、沈んでいる。
 だが、そこに彼女はいた。

 天使。純白の天使だ。

 比喩、と言い切るにはあまりにも天使が過ぎる。
 地獄に舞い降りた天使と言い切るにふさわしい。
 小さな天女。幼女だ。
 光の翼を纏ったかのような白いワンピースを纏う華奢な身体つき。
 絹糸のように艶やかな光沢を放つプラチナブロンドの髪は毛先が僅かに肩にかかる長さ。
 肌はまるでワンピースに溶け込むような雪色をしており、目はぱっちりと大きな瞳が前を向き、愛らしい赤い唇は小さく開いている。
 一歩一歩歩くごとに、光の粒子が足元で弾けているかのように眩い。
 完全に俺のドストライク。心臓にトゥンクと鼓動が鳴り響く。山荘の令嬢的な幼女は大好きだ。日の光に弱く、真白な姿で、どこか儚げで、しかし一生懸命さの滲み出る、そんな幼女。完璧に俺の好みにド直球ストライクです本当にありがとうございました。
 幼女は地獄を往く天使のように、人の林を塗ってこちらへと向かっていた。背に可愛らしい小さな鞄を背負っていて、それが人の足に引っかかりうまく進めないでいるみたいだ。
 手伝ってあげたいのは山々。ここにいる人
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