第三話

―8―

 結局、アタシはシャルの家に住み着いてしまっていた。もしもアタシが魔物だってバレたらシャルにも両親にも迷惑がかかるってわかってるのに、出ていけなかった。
 その言い訳をするようにアタシはシャルの父親の仕事の手伝いもし始めた。重いものを運ぶだけじゃなくて、町に同行したのだ。先日の言いがかりもあったし、用心棒みたいなもんだ。
 町に行って、納品だけで終わらない場合は基本的に着いて行っている。まぁ横で突っ立ってるだけだけど。接客もしてみないかと言われたが、ありゃアタシには無理だ。
 これで別にいままでしてきたことへの詫びになるなんざ思ってない。あの村の連中が納得するはずもない。
 直接謝って、身を粉にして働いて尽くすか、そうでなきゃアタシの命を差し出すかしかないだろう。アタシの頭で思いつくのはそれくらいだ。
 でも、できない。怖い。あの村の連中に、死んじまった娘の親とかに何を言われるか考えると怖い。いままで何言われてもなんとも思わなかったのに。
 それに、村の連中がアタシにぶつける言葉が、シャルの口からも飛んでくるのではと考えると怖くて仕方がなかった。
 だから、アタシは時間を忘れるようにずっと身体を動かして、それかシャルの父親を手伝って働いていた。何かしていれば忘れられる。凶悪な魔物のアタシが、ちょっとはマシな存在になれると思いたかったのだ。
 当然、あの祭りの日以来、シャルとの時間はちょっとばかし短くなっちまった。不満そうに頬を膨らませるけど、代わりに思い切り遊んでやっている。アタシも、正直シャルといる時間が一番心が安らぐからな。
 それに、遊ぶ時間は減っちまったが一緒にいる時間は長くなった。
「ねー、ルーリアー、今日もいい?」
 もう寝る時間。シャルはアタシが使わせてもらってる部屋(もとは客用だったらしい)のドアからひょっこりと顔を出した。
「また怖い夢見そうか?」
「……うん」
 祭りの日以来、シャルは怖い夢を見るらしい。どんな夢かは教えてくれないけど、相当怖ぇ夢らしくて、しきりに一緒に寝て欲しいとせがんできたのだ。
 最初こそ渋ったが、シャルの両親たちにもお願いされて一緒に寝ることになった。
 んで、本当に怖い夢見たのかよって思うくらいシャルはぐっすり寝ていやがった。
 アタシを抱き枕にして。
 そして今日もだ。
「ふふふー、ルーリアの身体あったかいー」
 ベッドの上。服は脱いで、毛だけで色々な場所を隠しているアタシの身体に真正面から抱き付いてくるシャル。胸辺りの毛に顔を埋める様は、シャルの身体の小ささも相まってアタシの毛に食われているみたいだ。
「いま夏だぞ、熱くねーのか?」
「んー。なんだかねー、ルーリアの身体ねー、くっついてても熱くはないけどぽかぽかするの」
 ぐりぐりと顔をこすりつけてくる。腰のところに腕を回されて密着しちまっていた。
「そっか。今日も寝れそうか?」
「うん!」
 頭を右手で撫でながら、左手はシャルの背に回す。さらに脚を軽く曲げて、シャルの脚に絡めてさらに密着させた。これじゃあアタシがシャルのことを抱き枕にしてるみたいだ。
 アタシもどうしてか、シャルと抱き合ってても熱く感じない。ぽかぽか、という表現が正しいんだろう。なんていうか、落ち着く。でも尻尾はぶんぶん振ってしまう。やっぱり落ち着いてないかもしれねぇ。
「ルーリアの身体はふわふわでー、ふゆふゆで気持ちいいねー」
「ったく、お前は甘えん坊だな」
「ルーリアの毛がふわふわなのが悪いんだもん」
 アタシの胸に顔を埋めて、いっぱいの毛を頬で撫でてくる。
 ん、ちょっとばかし胸の先っちょが擦れて変な感じだ。
「まっ、精々甘えやがれ。ほら、もっとアタシの身体に引っ付きな」
「う、うん」
 掛け布団なんざいらねぇだろ。アタシの毛が、身体がこいつの布団だ。というか、アタシがいりゃあベッドもいらねぇだろうな。どこで寝るにしてもこいつにはアタシがいりゃ十分だ。
「……どした?」
 ふと気づくと、シャルがなんだかもじもじしていた。身体をゆっくりとしかし小刻みに揺らしてそわそわしている。
「な、なんでもない、よ」
 声もどこかたどたどしい。
 風邪? いや、そんな感じはしない。だけどシャルの様子が変だ。さっきまで引っ付いてきてたのに、ちょっと距離を取ろうとしているような感じがする。特に腰から下。アタシの脚から逃れようとしてるようにも思えた。
「なんだなんだ。シャルから抱き付いてきたんだろ? なんで離れようとするんだよ」
 寂しいじゃないか。
「あぅ……うぅ、だってぇ」
「ん?」
 シャルの腰の辺りが前後に揺れる。すると、アタシの腰を何か固い小さな何かが突いた。
「あう」
 シャルの口から甘い声が漏れる。
 これってまさか。
 アタシはシャルの腰に脚を回し、
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