―6―
一週間くらい経った。
怪我はもうすっかり良くなったけど、アタシはいまもシャルの家に寝泊まりしている。
「よっと、これあっちに運べばいいんだな?」
「ええ、よろしく」
アタシは馬車の荷台に、枝葉を切って丸坊主になった木を運んで積んでいく。これは町で建材に使われるものらしい。馬車も納品先の商人のものだ。毎回時期が来るとこうしてやってくるらしい。
だからいまのアタシは人間の姿に化けている。ぼさぼさの肩甲骨まである黒髪に褐色肌。身長と顔はそう変わらないけど、爪とか魔力の目とかは消してある。
シャルの家族以外に魔物だってバレたら面倒くせぇからな。ただし当然首輪は付けている。付けてないと落ち着かねぇからな。ちなみに服は母親のだ。すげぇパツパツだけど。胸の辺りとか特に。
「あとはこれか」
大量の枝を縄でまとめたのを荷台に積んでいく。これは建材に使われる木や、森に落ちていたもの、密集する樹々の枝から少しばかり刈り取って集めたもんだ。
枝はきちんと乾燥させりゃあ暖炉とかの燃料になるらしい。薪だと伐採した木が減るけど、こっちならさほど森の木も減らないんだと。
燃料にするには二年以上乾燥させなきゃいけねぇらしいから、かなり面倒そうだがな。
「ルーリアー、お仕事のお手伝い終わったー?」
家の裏手から麻袋を幾つも抱えたシャルが現れる。シャルの家には、寝泊まりする家以外にも幾つか小屋があった。薬草を保管しておく小屋とか。
アタシがシャルの父親に目で尋ねると笑って頷いてくれた。
「ありがとう。お疲れ様」
「おう。ちょうど終わったとこだ」
「ぼくもこれで終わりー」
シャルは麻袋を父親に渡す。父親は商人に同行して町まで行って、薬草とか枝とか売るそうだ。帰りは夕方以降。
こんな感じで、アタシも何かとお仕事とやらを手伝うようになった。
別に頼まれたわけでも命令されたわけでもねぇが、よくよく考えりゃ怪我して倒れてたとこを拾ってもらったわけだしな。手当もしてもらった。アタシは借りは作りたくない性分だ。奪うのならともかくよ。
だからとりあえずシャルの家で寝泊まりしてる間だけはこうやって手伝ってる。
やることは力仕事がほとんどだ。難しいことなんてわかんねぇし。人間なら数人がかりで運ぶでかい木も、アタシなら片腕一本で十分だしな。
テキザイテキショ、ってやつだ。
まぁ、ここ数日手伝ってみたが、感謝されるのも悪くないかもな。
「重くなかったか?」
「うん! えへへ、ルーリア、お疲れ様」
にっこり笑うシャルにアタシは鼻を鳴らして顔を逸らす。危うく目が眩んじまうところだったぜ。
「ねー、ルーリアー、終わったなら遊ぼー」
アタシの腕をぐいぐいと引っ張ってくるシャル。お手伝いが終わったらこうなるのも日課になりつつあった。
「元気だな、おめぇは。今日は何がしてぇんだ?」
「お散歩でしょー、木の実拾いでしょー、釣りもしたいしー、おいかけっこもー」
「欲張りな奴だなおめー」
わしゃわしゃとシャルの頭を乱暴に撫でる。まぁ付き合うけどな。
「あー、シャル、ルーリア。二人とも遊びに行くんなら折角だ。町に一緒に行かないか?」
アタシたちが森へ行こうと手を繋いだところで、馬車の荷台からシャルの父親が声をかけてくる。
「今日は祭りがあるみたいなんだ。色々出し物があるぞ」
「おおー、どうするルーリア?」
「……まぁシャルが行くってんなら」
「じゃー行くー!」
ってことでアタシたちも馬車に乗ることになった。母親はお土産を期待していると言って家にお留守番になった。
「わぁい、初めてのルーリアと町だー」
「シャルは町に行ったことあるのか?」
「いっぱいあるよー。美味しい食べ物いっぱいだよー! 人もいっぱいでー大きな家もいっぱいだよー。町から大っきなお城が見えるんだよ!」
ほう、旨い食べ物か。それは楽しみだ。
シャルを持ち上げて馬車へと乗せる。アタシも意気揚々と馬車に乗り込んだんだけど。
「狭い。揺れる。尻痛い」
出発して早速の感想。初めて乗った馬車の乗り心地は、まぁ最悪だった。
唯一の救いは、だだっ広い平野の景色を眺めるシャルの横顔が可愛かったことくらいだ。
町には一時間ほどで着いた。荷を積んだゆっくり走る馬車でこれだし、あんまり遠くなかったみたいだ。足と尻が痺れるには十分だったけど。
にしても人が多いな。常に誰かとすれ違う。しかも広い。建物でかい。アタシたちが建物の影に埋もれてしまうくらい高い建物ばかりだ。
そんでもって遠くに石造りのお城が見える。ここは城下町、とかいう場所らしい。
こんな場所来るの初めてだ。いままでは人のいるところといやぁ、木造りの小さくて狭い家がまばらにあって、畑とかが広がってるようなそんな場所ばかり。こんな人も建物も
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