僕の名前は小野塚裕太。神城中学に通う一年生だ。
最近、僕の人生ってなんなんだろう、と僕はよく考える。人に見向きもされない人生に価値ってあるのかな。ないのだとしたら、僕の人生ってどうしようもなく、無価値なものなんじゃないのかな。
そう、僕は独りだ。誰にも見向きもされない人間だ。家では両親がいなくて独り。学校では皆に無視されて独り。
起きて、学校行って、勉強して、帰って、ご飯食べて、塾に行って、帰って、寝る。それ繰り返す。ただ繰り返す。山も谷もなく、波もない。平坦な道をひたすら歩くだけの人生。
誰も僕を見ない。両親は共働きでほとんど家に帰ってこない。たまに帰ってきても、成績を気にするだけ。それだけ。
学校で僕が無視されたのはいつからだったっけ。小学六年生の頃だったかな。そうなったのは下らない理由だったと思う。無視される子を庇ったら、今度は無視される対象が僕に変わったというだけだ。それが中学生になっても続いている。だから僕は独り。それだけ。
僕は誰にも見てもらえない。
たった一人世界に取り残されて、寂しい人生をただ歩いているだけ。
だからよく考える。僕の人生に意味はあるのかって。誰にも関わらない人生に意味はあるのかって。僕はいなくなるべき存在じゃないのかって、よく考える。
「…………っ!」
だけど、いやなんだ。僕は本当は独りはいやなんだ。寂しいんだ。僕を見てほしいんだ。独りにしないでほしいんだ。夜は悲しい。寒くて暗い部屋に独りで眠る。それが怖い。このまま本当にいなくなってしまいそうで怖くなるんだ。いやだよ、独りにしないで。誰か、僕を見てよ。もう独りはいやだよ。寂しいよ。
「私がユウくんの傍にいるよ」
そんなときだった。僕が絶対に吐き出さない言葉を、心の中で叫んでいるときだった。僕を見つめる視線に気づいたのは。
それは、電車を乗り継いで通う塾の帰り道だった。
視線は神城駅の三つ前から感じていた。その視線の人は女性。スーツを着た大人の女性だ。最初は気のせいだも思ったけど、それが塾の日にずっと続き、僕と同じ駅で降りると気のせいじゃないとわかった。そのお姉さんは僕をずっと見ていた。家の近くまで僕の少し後ろを追いかけてきている。
最初は危ない人だと思った。怖くも思った。でもお姉さんはなにもしてこなかった。ただ僕を見て、僕の後ろを着いてくる。それだけ。
いつしか、僕はそのお姉さんに見られるのが楽しみになってきていた。今まで僕は誰にも見向きされなかった。そんな僕が見られている。ずっと見られている。それがどうしてだろう。とても嬉しかったのだ。
だから僕は、わざと気づかないように明後日の方へ向いて、隙を作ったりした。そうすれば視線をいっぱい感じられた。とても心地よかった。
時には、電車の中でその視線に気づいたふりをしてお姉さんを見た。そうするとそのお姉さんは私から視線を必ず逸らす。その間は、僕がお姉さんを見つめた。黒髪のきれいな人だ。顔がちょっと赤くなっている気がした。どうしてだろう?
お姉さんは、どうして僕を見るのだろうと想像して楽しむこともあった。でもどうしてかは全然わからなかった。だからいっそのこと話しかけてみようかとも思った。でも出来なかった。この関係を壊したくなかったんだ。もし僕が、お姉さんが見ていることに気づいていると知られたら、もう見てもらえないんじゃないかと思った。
それは僕の人生の終わりだと思った。
僕の人生は、あの女の人に見られることがすべてになっていたんだ。
夢なら醒めないで、と僕は願った。幸せな夢をずっと僕はもっと味わいたかったのだ。今までの分までもっと。
でも。
夢は醒める。必ず醒めてしまう。
だけど。
夢から醒めた現実は、夢より幸せな現実だった。
それは僕は神城中学の三年の先輩に絡まれたときのこと。金を出せと脅された。そんなことされたのは初めてで、僕はなにもできなかった。ただ怖かったのだ。
そして、胸ぐらを掴まれたそのときだった。あの人が颯爽と現れたのだ。
「汚い手で触らないで」
お姉さんは三年の先輩たちをたちまち倒してしまった。ナイフを出した先輩も一瞬で倒してしまった。凄かった。かっこよかった。
「お家に案内してくれるかしら?連れてってあげるわ」
あの憧れのお姉さんが、今僕の目の前にいる。僕を見てくれている。笑顔で僕を見つめてくれている。
僕の現実は幸せな色に変わっていった。
公園のベンチに座って色々お話しした。コーラを買ってもらったけど、緊張して味なんてしなかった。憧れのお姉さんと僕は話をしているんだと思い、天にも昇ってしまいそうな気分だった。
お姉さんの名前は手塚浩子っていうらしい。でもお姉さんはお姉さんだ。僕はお姉さんと呼ぶ。
お姉さんが見ていることに気づいていたと言
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録