第九章 未来を仰ぐ者二人:天の柱H〜ドラゴニア城A

―1―

 そして、当然ながら、いまのおれたちは飛ぶことができない。
「あ、ぐほっ!?」
 二階分に相当する高さから落下。受け身も取れずおれたちはワンバウンドして転がって、倒れる。真横に呈。少し離れた位置にモエニア。
 おれは身体を引きずって呈を抱き起す。
「いたた……ぼくたち、勝ったんだよね……?」
「ふぅ……ああ」
「えへへ、お疲れ様」
「呈もな」
 じんわりと胸の内が熱くなる。あれだけどうにもならなかったモエニアを下した。呈と一緒に。おれたちどっちがいなくても成し得なかった勝利だ。二人で勝った。そのことが純粋に嬉しい。
 この高揚感のまま、おれは呈へと吸い寄せられた。呈の顔へ、その紅く熟れた唇へと。
 そして触れるその刹那。
 うつ伏せに寝転がったモエニアが顔だけこちらに向けていることに気づいた。
 目をキラキラと輝かせて、心底楽しそうに。
「何故やめる。ほらそこだ、行け! ぶちゅっといってしまえ!」
「「……」」
 あれだけ呈の炎を注ぎ込まれたのに何でぴんぴんしているんですかね?
「おい、何故やめる。今更恥ずかしがることないだろう。情事は全てドラゴニア国民全員に見られていたのだ」
「それでもモエニアには見られたくないんだよな」
「ぼくも」
 真顔で言ってやった。悲しそうに眦を下げるが、全然可哀想には思わない。
「くっ、敗者に情けはないというのか」
「逆に情けなんてかけられたくないもんじゃないの?」
 ええい、とモエニアがジタバタと暴れる。もう魔力も枯渇しているためか力も弱いし、白炎も出ないが。
「さっさと行くがいい! お前たちは私を下した。ドラグリンデ様もお前たちが十分に成長した姿を見届けられて満足だろうさ! 私の役目は終わったんだ! とっととケジメをつけてこい!」
「はいはい。まるで子供みたいだ……ん、あれ?」
 呈と一緒に立ち上がりながら、おれは言葉の引っ掛かりを覚えた。
 いまモエニアはなんて言った?
「ドラグリンデ様も満足? これドラグリンデ様も見てたの?」
 モエニアがきょとんとする。おれの言葉の意味が理解できていない風だった。
「いやそれはもちろん御覧になっているはずだが? 実際、ここに来る前は一緒に見ていたし」
「一緒に? え? お亡くなりになってたんじゃあ……」
「何を言っているんだお前らは!? 不敬だぞ!?」
 呈の質問に激昂するモエニア。あ、これ本気で怒ってる。
「え、でもだって、モエニアさん、ドラグリンデ様のこと話したがらなかったし」
「はぁ? 何を言ってるんだ、私はドラグリンデ様が亡くなったなどと一言も」
「でも……ドラグリンデ様のことを尋ねたとき怒ってたし……それで聞かれたくないことだったのかなって。だから亡くなっていたものかと」
 呈がモエニアとドラグリンデ様のことについて話してたときのことを言うと、モエニアはしばし熟考した。俯せで寝転んだ状態で。
 そして、顔から滝のような汗を流しながら、宣誓するように右手を上げる。
「誤解だそれは。ドラグリンデ様はいまも夫であるユリウス様と仲睦まじくおられる」
「え、そうなんですか?」
 モエニアは説明をとつとつと説明を始めた。
「えっと、だ。あの日の何日も前から竜の墓場のドラゴンゾンビたちが暴走して町に集団で押しかけようとしていたんだ。ドラグリンデ様はな、竜の墓場の管理者でな。混沌とした事態に陥らないよう、事態の収拾鎮静化、ドラゴンゾンビたちの慰めなどに務めて忙しい日が続いてしまっていたんだ」
「ふむふむ」
「その間、ドラグリンデ様はしばらくユリウス様とまともに二人きりで過ごせていなかったものでな。用事や用件などをドラグリンデ様に持って行きたくはなかったのだ」
 つまり、モエニアはドラグリンデ様が夫と二人きりでゆっくり休めるよう気を遣っていたというわけか。そのせいで呈への態度が少し固くなり、呈も勘違いしてしまったと。
「なんだそりゃ……」
 ば、馬鹿馬鹿しすぎる。
「よ、良かった……ドラグリンデ様は生きているんですね。いまも幼馴染の王様と一緒に」
「無論だ。ドラゲイ時代に命を奪ってしまった竜たちへの贖罪のため、いまも彷徨うドラゴンゾンビたちを良き方向へ導こうとするユリウス様に寄り添い、いまも仲睦まじく過ごしておられる」
「……」
 本当に主人想いなんだな、モエニアは。寝転んでいる状態だからすごく締まらないけど。
「さて、わかったらさっさと行け。もうお前たちの行く手を遮る者は誰一人としていない」
 さすがにこれ以上の刺客的な何かは勘弁だ。呈と誰にも見られずいっぱいエッチなことしたいし、早く終わらせよう。
 そう思ったけど。
「モエニアさんは置いて行って大丈夫なんですか?」
 呈はどうやらこのままモエニアを置いていくことが心配らしい。ドラゴンだし、たとえ魔
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