―13―
蒼炎がおれを包んでいた。あの理不尽な白炎はどこにもなかった。
それに。
「え、え? なんで、ええ?」
おれは何故か空を飛んでいた。しかも天の柱の外。好戦的な笑みを浮かべて見上げてくるモエニアが下にいる。
いや、飛んでいるのはおれじゃない。白と蒼の混じった尾におれは跨いでいて、それが宙に浮いていたのだ。
「大丈夫? スワロー?」
指を絡めて手を握る呈がそう言葉を投げかけてくる。
おれは頭をゆっくりあげた。
宙をうねる白麟と蒼鱗の入り混じった尾。そこに龍毛のように生える蒼い炎。
腕や身体はまるで竜の鱗のように蒼い炎を纏い、濃淡によってまるで炎の着物を着ているかのように優美に揺れている。
「ぼくはもう大丈夫。もう折れないよ。絶対に」
おれをまっすぐ見つめてくる呈。
先が蒼く硬質になっていた呈の耳からは蒼炎が伸び、頭部からは細く枝分かれた二対の角が蒼炎で象られていた。
揺らめく幽玄の炎。変わり切ってしまっているのに、おれはその姿の呈がとてもしっくりきた。白蛇の姿じゃない、もっと別の何かに変わってしまっているのに。
龍。
彼女が仕えるべき水神。
呈は、彼の竜と同じ姿になっていた。
でも、それが呈の望んだ姿で、どこまでもいっても呈だということには変わりなかった。
このドラゴニアに住まう一匹の竜として。
龍と成った呈の姿はとても美しかった。
少なくとも、思わず声も出せずにじっと見つめてしまうくらいには。
「ス、スワロー?」
そしていたたまれなくなった呈がおれに声をかけてくるくらいには。
それくらい、いまの呈はおれを魅了し尽くしたのだった。
「正直、いまの呈とセックスしたい。すごいシたい。モエニアにも他の皆にも見られてもいいからシたい」
「ぼくもシたい」
でも、だ。
「やるべきことやってから好きなだけヤろう」
「うん。生まれ変わったぼくとスワローで、あの理不尽を越えよう」
モエニアを見下ろす。じっとおれたちを見上げて、モエニアはすでに臨戦態勢を取っていた。そして翼を広げ、おれたちと同じ目線まで飛んだ。あの白炎を纏わずに。
「さぁ行こう、スワロー。今日ここで、全てを終わらせて、ぼくたちは新しい門出の一歩を踏み出すんだ!」
「ああ!」
身を尽くし、心を尽くし、死力を尽くし、愛を尽くし、おれたちは理不尽へと飛翔した。
「キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
ミクスは絶叫した。周囲にいた呈の友人諸氏が一斉にミクスへと視線を吸い寄せられる。
が、気にせずミクスはホップステップジャンプと喜びを全身で表現するように忙しなく動き回った。ここは天下の竜翼通り。水球を見上げて足を止めていた通行人たちも皆ミクスを見ているが、知ったことじゃない。
「来たよ来たよ、キタキタキタキタキタァ!! あれだよ、アレ! 僕はアレが見たかったんだ! 小さな小さなか弱い少女が、己が限界を超えて成長するその瞬間! これまでの弱い自分の殻を破るその刹那! いいや! 殻じゃない! 蛇だ! だから脱皮だ! 脱ぎ捨てたんだ! 蛇はいま脱皮し、そして!」
諸手を広げてミクスは砲声する。
「龍へと昇華した!!」
くぅ〜とミクスは唸る。感情の奔流を抑えきれないとでも言いたげに、この愉悦をどこへ向ければいいのかわからないと言いたげに、自身の身体の内で破裂させる。
そして、自分を見る皆へと向けた。
「ありがとうスワロー! ありがとうリゼラ! ありがとうメッダー! ありがとうグリューエ! ありがとうストリーマ! ありがとうドラグリンデ! ありがとうデオノーラ! ありがとう龍泉! ありがとう真白! ありがとう聖! ありがとうリム! ありがとうウェント! ありがとうセルヴィス! ありがとうラミィ! ありがとうキサラギ! ありがとうヴィータ! ありがとうファリア! ありがとう皆!! 君たちがいたから、呈は龍と成った! 白蛇の魔力を枯渇させ、竜の魔力を注ぎ馴染ませ、王たるデオノーラ、ドラグリンデ、グリューエ、そして龍泉の魔力を注ぎ、呈の魔力と交わらせなければ決して龍には成り得なかった! 何より変わろうという意思! 竜に成ろうという絶対的な意思! ありがとうモエニア! 君という理不尽な壁がなければ呈は変わらなかっただろう! 感謝するよ、このドラゴニアに住まう全ての者に!」
そして何より。
「この光景が見られるよう導いたこの僕自身に! ありがとうッ!!」
そして哄笑を響かせる。竜翼通りの上から下まで響きかねないほどの、ある種狂気すら混じった淫魔の笑い声を。
仰ぐ空は蒼く、呈の魔力の片鱗がこちらまで届いていた。
「い、いつもこんななのか?」
メッダーの問いにキサラギは笑む。
「今日は特別っすね。うちだって本当
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6..
10]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録