―11―
ヴィータらワイバーンが天の柱から飛び出し男と交わっているとき。スワローと呈が濃密な蒼い炎に浸るセックスを交わしているときのことだった。
そこはドラグリンデ城の玉座だった。この玉座は使われなくなって久しい。それでも白炎竜モエニアらメイドたちはそこの掃除を毎日欠かすことはなかった。チリ一つ、シミ一つ残さず常に綺麗に保たせていた。
今日は、その毎日の掃除の成果が出た。
その玉座にはこの城の主が、威風堂々と座していたのだ。長らく使われていなくとも、その光景に違和感を覚える者は誰一人としていなかった。彼女こそがここに座るに相応しい人物だったのだ。
「暇を頂きたく思います」
彼女の前に恭しく跪き、モエニアが申し出る。
彼女は尋ねた。呈とスワローの元にか、と。
「はい」
それはあの黒いリリム、ミクスに依頼されたからか。
「いいえ、それだけではありません。私が行きたいのです。あなた様と先王を見てきた私だからこそ、私は彼らの前に立ちたい。立たねばならない」
モエニアのその瞳に彼女は在りし日を思い出す。モエニアが白炎竜と成った日、竜の心と気高き精神を備えるに至った日のことを。
モエニアの瞳には覚悟があった。自身の壁となっていた己自身のように、呈たちにとって壁そのものとなる決意を秘めていた。
「私が彼らの最後の壁となりましょう」
モエニアは呈とスワローのことを微塵とも疑ってはいなかった。越えられるものと確信している。
そこまで想っているモエニアを止める理由など、彼女にはなかった。たった一言。
行ってあげて。
そう送り出す。
モエニアは立ち上がると恭しくお辞儀した。
竜となってから頑固になってしまったと、外へ向かうその背を見送りながら彼女は思う。
誰に似たのかしら。その問いは彼女の中で反響し続けた。
彼女の頭上に浮く呈とスワローの情事を映す水球が、炎の花咲くドレスを纏う彼女の姿を微かに反射させる。
セミショートに切りそろえられた髪の内で、彼女の口元は少しばかり綻んでいた。
「ようやく来たか」
「モエニアさん」
純白のドラゴン、モエニアさんがおれたちを見据える。その眼光は鋭く、一メイドとしてではなく竜として在った。
「ど、どうしてモエニアさんがここに? ま、前と服が違いますね」
呈の疑問通り、彼女はいつも着ているメイド服ではなかった。いつもは足元まであるロングスカートのメイド服だったが、いま着ているのは太もも半分ほどまでしかない、ミニスカートタイプ。スカートの下まで肌の露出を隠す純白のハイソックスを穿き、上半身も翻りやすいフリルは徹底的に排除され、全身の駆動域を最大限に重視した仕様のメイド服を着ていた。
まるでこれから激しい運動でもするかのように。
「理由か。二つあるが、一つは労いに来た。よくぞここまで辿り着いたな。お前たちの奮闘は全て見させてもらっていたぞ」
玉座前の階段から降り、モエニアさんがおれたちと同じ高さまでやってくる。竜らしい気迫を潜めたモエニアさんに安堵したのか、呈もモエニアさんに近づいた。おれもそれに倣う。薄氷を踏むような緊張感を背に抱いたまま。
「全部? 監視でもしてたの?」
「いや、そういうわけではない。祭りと聞いただろう?」
彼女が手をかざすと掌に小さな雫が出現した。それはみるみるうちに水球となる。そこにはおれたちの姿が映っていた。
番いの儀のときに使われていたものと同じ水球だ。
まさか、という考えが脳裏に過ぎる。おれは窓の傍に行き、下を見下ろした。当然ながら分厚い魔力の雲、遠くの方も雲海に覆われているため地上を見ることは叶わない。だけど、おれの予想が正しいと言わんばかりにモエニアさんがくつくつと笑った。
「察しの通りだ。お前たちの様子は全てドラゴニア中に中継されている。ばっちりとな」
「な、なななっ?」
合点のいった呈がその言葉の意味を理解した瞬間、白い肌が羞恥に染まる。
呈の隣まで戻り、モエニアさんにおれは向き直った。
「全部って全部?」
「濃密な交わりも全て、だな」
モエニアさんが口の端を愉悦に歪ませる。おれたちが羞恥に見舞われている状況が、心底面白おかしいらしい。
「な、な、なななんでこんなことするんですかぁっ!?」
「私に言うな。企画したのはミクス・プリケットだ。文句は終わってからあいつに言え」
「な、なんでこんなことするですかぁっ! な、なんっ、なんでぇ!?」
今度はモエニアさんの持つ水球に向かって呈が文句を言う。あまりにも文句を言いたくて逆に言葉が見つからないらしい。
多分ミクスには聞こえているだろうし、見えているだろうけど、それをしても結局ミクスは喜ぶだけなんだろうな。
ミクスがおれたちに協力してくれたり、キサラギに魔法道具を売っておれの
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