10月31日。もはや日本でも恒例となってしまったお祭りの日、ハロウィンである。
もとはケルト人とやらの収穫祭とか悪霊を祓う祭事とかだったらしいけど詳しくは知らない。
少なくとも日本じゃあ厳粛なものではないし、俺にとってはとにかく騒ぎたいだけの人がどんちゃん騒ぎをするための祭りという印象しかない。
それが悪いかどうかは微妙だ。俺自身は参加するつもりはないが当人たちが誰にも迷惑かけず楽しんでいるなら好きにすればいいと思う。ネットでは色々マイナスな面を取り上げた意見もあるが、確かにあるのだが、結局のところ楽しんだもの勝ちだ。
それにこの時期はネットで可愛いハロウィン絵がアップされまくるので、目の保養にもなる。
最近三期に突入した「のじゃロリ魔法少女バフォちゃん」のバフォちゃんのジャックオーランタンコスも、色々な絵師さんたちにアップされていて、もう画像フォルダがパンパンである。皆いい仕事する。
仕事以外では普段外を出歩かない俺でも楽しめているのだから、俺にとっても悪い日じゃない。
なので、ハロウィン当日の俺は独りアパートの一室でネットサーフィンを続けているのである。おっ、このバフォちゃんのパンプキンドレスコスいいな。切り込みから僅かに見えるかぼちゃパンツのパンチラ。この絵師さんはわかってらっしゃる。
「保存保存っと……ん?」
ちょうど画像をバフォちゃん専用フォルダに入れたときだった。
呼び鈴がピンポーンと鳴った。
こんな時間に誰だ? 友達が来る予定はなかったはずだし、もう九時過ぎているんだが。
無視しようかと思ったらさらに鳴った。ピンポーン。ピンポーン。ピンポピンポーン。
これは出ないといつまでも鳴らしまくるパターンだ。
仕方ない。さっさと出て用件聞いて終わらせよう。
「はいはい、いま出ますよっと」
サンダルを履いて鍵を開ける。チェーンはしてない。まぁ俺の家に押し込み強盗する輩はいないだろう。
と思っていたのだが。
「どわっ!?」
ドアを開けた瞬間、隙間に腕が侵入してきたかと思うと一気にドアを開け放たれてしまった。
突然のことに俺は思わず仰け反って尻もちをついてしまう。
尻の痛みに涙目になる俺を尻目に、ドアを無理矢理開けた人物が一歩玄関に入り込んできた。
そして、俺の頭上である言葉を振り下ろした。
「トリックオアトリート」
ある種、押し込み強盗と似たような定型句だった。
「……えーと、誰ですか?」
知り合いではなかった。
俺の前に現れた、長い腰ほどまである黒髪を垂らす女性。両腕をまっすぐ前に突き出し、手はだらんと地に向いている。
彼女は中国の某ホラー映画に出てきそうな道士服を着ていた。頭にはどんぶり帽だとかキョンシー帽とか呼ばれるものを被っている。
普通は黒だったり濃い赤だったりするその服の色は、かぼちゃ色に染まって妙にアンバランスな風体だった。
それにズボンは全然腰回りを隠していないし、道士服の前掛け部分が際どい所を隠しているだけで、太ももやら横腹が露出している。
ノ、ノーパンじゃないか……。
そんな彼女の姿をがっつり網膜に焼き付けていると、女性は小首を傾げた。
やばい、ついガン見してしまって……。
帽子の額部分に張られた札が傾き、彼女の顔が下から良く見えるようになる。
「……」
俺は息が止まったかと思った。
尋常じゃないくらい可愛かった。肌の色は仮装するためか生気を全く感じられないほどに、全身青ざめているのに、それを補って余りある。いや、逆にその儚さに際立たせられているかのような、生者には一生獲得できない美貌を彼女は備えていた。
俺よりは年下だろうけど、しかし子供ではない歳に見える人がハロウィン当日とは言え、断りもなく玄関に侵入してきた。
なのに、そんなことも忘れて俺は女性に見惚れてしまっていた。
「大丈夫ですか?」
腰を曲げて腕は伸ばしたまま、俺を見下ろしてくる彼女。
地に向いていた手がくるりと天井に向いた。手を差し伸べてくれたのだと気づいて俺はその手を取り立ち上がる。
「ッ! ……?」
その手を借りて立ち上がると一瞬、痛みのような甘い痺れが掌に走ったが、傷は何もついてなかった。多分、彼女の蛍光色のピンク色の付け爪が触れたのだろう。
「あ、ありがとう」
「いえ、申し訳ないです。驚かせてしまいました」
何も書かれていない奇妙な札の端から見える彼女の顔はまるっきり無表情。まるで何を考えているのかはさっぱり窺えないが、とりあえず強盗の類ではないことはわかった。
「えっと、トリックオアトリート?」
「はい、トリックオアトリートです」
「近くでハロウィンイベントやってるの?」
「はい。私みたいな女の子がいっぱい町を回ってます」
「へぇ」
元より参加するつもりも、
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