第六章 白蛇、山嶺に消ゆ:ドラグリンデ城@


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 勝負自体は勝てたみたいだった。帰りの道中でメッダーさんの背中で目が覚めて、結果を教えてもらった。三十二杯。なんと呑みすぎていたみたいだ。数えてたのならドラゴンさんも止めてくれたら良かったのになぁ。
 無事キサラギさんのお仕事は達成。お友達になってくれたメッダーさんにお礼を言ってから別れた。また近いうちに遊びに行こう。
 そして、ぼくがお酒をいっぱい呑んで帰ってきたことはスワローはもちろん、リムさんたちも驚かせてしまったようだ。「呈ちゃんをほったらかしにするからグレちゃったじゃないッ!」とリムさんがスワローを絞めて、止めるのに一苦労した。
 すぐに誤解は解けたけど誤魔化す羽目になっちゃった。メッダーさんにも口止めしておいたおかげで何も言わずに帰ってくれた。でも幸いなのかな、それとも寂しいのかな。スワローはあまり踏み入ってきてくれなかった。隠れてやっていることだから幸いなのだけど……やっぱり寂しいのかも。
 スラドラゼリーをあげたら喜んでくれた。スワローもリムさんもウェントさんも、美味しそうに食べてくれた。ぼくは全身で味わったから見るのも嫌だったけど。
 そうして翌日。前日無理しすぎたから十二時間近く寝ていたぼくは九時頃に目が覚めた。スワローはベッドの横に座って、ぼくが起きるのを待ってくれていた。すぐにまた訓練に出かけていったけど、待っていてくれたのはすごく嬉しかった。やっぱり一緒にいられるのはすごく嬉しい。これで今日も頑張れる。この時間をずっと続けるために、ぼくは頑張れる。
 それからも幾つかキサラギさんからの仕事をこなした。スラドラゼリーやドラスコグラスのときみたいな肉体的に疲れちゃう仕事じゃなくて、ほとんどがお遣い。どこどこの誰々さんに商品を届けたり、商品を仕入れたり。魔界作物農家の人たちのところを色々巡って美味しいものを頂きつつ、依頼の品を届けたり。スラドラゼリーみたいな入手に一癖あるようなものじゃなくて、取り立てて言う必要もないようなありふれたものだったから、ちょっと肩透かしを食らっちゃった。いや、またあんなのが来ちゃうのは絶対に勘弁して欲しいんだけどね。
 肉体的に疲れない、とは行っても広いドラゴニア領内を歩き回ったり、時にはケンタウロスさんの馬車やワイバーンさんの背、魔界豚さんや魔界蜥蜴さんの背に乗せてもらったりして移動した。
 もちろん身一つでちょっと険しい道を歩いたりもした。ぼくの実家は森に覆われた山にあって、そこで育ったから多少の険しさは大丈夫。とは言ってもガイドさんに案内してもらいながらだったけど。奇しくもドラゴニア領を色々回った形だ。
 ただ、今度スワローと一緒に行きたいと思える場所をピックアップできたのはちょうどよかったかもしれない。
 そうしてキサラギさんのお仕事のお手伝いを初めてから六日程経った頃だった。
「じゃあ次で最後の仕事っす」
「え、もうですか?」
「いやいや充分すぎるくらい働いてくれたっすよ。それに天の柱の大規模修繕まで明日で一週間。装備に慣れるだけじゃなくて、高所で動き回れるよう訓練する時間も必要になるっす」
 装備を手に入れて終わりじゃない。スワローの足手纏いにならずについていけるようにならないといけないんだ。
 妖怪と言えど、子供のぼくがあの高い塔に無事登れる保証なんてない。現に一度落ちて、スワローに助けてもらってるんだから。
 多分、一週間でも足りないんだろう。でも、やらないと。スワローと一緒にいるために。
「はいはい、固くなってるっすよ」
「むぎゅ」
 キサラギさんに両頬をむぎゅむぎゅと両手で挟まれた。餅のようにこねくり回されてしまう。
「千里の道も一歩からっす。まずは目の前の最後の仕事をきっちりこなしてください」
「はい! ……えっと、それでどんなお仕事ですか?」
「ふふふ、それはっすね」
 スラドラゼリーのときみたいな変なものじゃないといいなぁ、というぼくの望みは容易く砕かれそうだと、キサラギさんの意地悪な笑みを見て思った。

 ぼくがやってきたのは城下町から離れた場所のとある古城。
 ここに着くまでに幾つかお城や屋敷を見たけども、それらとは比べ物にはならないくらい大きな古城だった。
 ドラグリンデ城。
 どんな敵も寄せ付けない巨大な城壁に囲まれた中に、四つの城が連なって雄々しくそびえたつ古城。ここが、エリューさんたちが歌ってくれた物語の中にもいたドラグリンデ様のお城。ずっとずっと昔のお話だって聞いてたけど、いまもこうして残っているんだ。
 開かれた門をくぐる前からだけど、ここはドラゴニア城周囲の暗黒魔界に引けを取らないくらい濃密な魔力に満ちていた。暗く、しっとりとした魔力は身体に染み入るように絡みついてきて、心地いい。
 暗黒の魔力光に照らされたドラグリンデ城は
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