―4―
グランドワームの巣。名前通りワームさんが住んでいるというのは想像がついたけど、まさかその巣が地中にあるなんて思いもしなかった。
地中に埋まった魔宝石や、壁や天井に植えられた魔灯花が煌々と輝いて、まるで太陽の下にいるのかのように錯覚するそこは、まるでもう一つのドラゴニア。ジパングだと見かけない構造で、城壁の中に街があった。そしてその中心には巨大なお城。
ぼく異世界に迷い込んでないよね? ちょっとばかり長く歩いたりはしたけど、まず間違いなく竜翼通りの建物の階段を降りてここにやってきたはず。途中、ポータルを通ったり転送魔法を受けた感覚もなかった。
でもこの光景を地下だと信じるには、開放感がありすぎる。空なんてないんだけど、ワイバーンさんがゆうゆうと飛べるくらいには広い。
「もうドラゴニアに来てから驚かなかった日なんてないよ……」
城壁の門をくぐってすぐにぼくを出迎えたのは、鼻腔をツンとする刺激する匂いだった。お酒の香りだ。ここに来るまでもワインの香りを放つ陶酔の果実のようなものがいっぱい地中から生える蔦に生っていたけど、ここはその香り以外も色々混じってる。ジパングでよく飲まれている清酒の香りさえもしていた。
大通りの行き来はあまり激しくない。でも一人でいるのはぼくくらいだった。道を行き交う魔物、立ち止まって何かしている人は、顔を朱に染めて肩を組んだり談笑したりしている。
通りを歩いてすれ違う人は皆、アカオニさん顔負けの真っ赤っか。それに片手には、ある人は両手には、お酒の瓶や四角い金属の容器があり、頻繁にそれをあおっていた。
誇張表現なしで、本当に皆が皆お酒を飲んでいる。お酒を飲んでないのに加えて、一人でいるぼくの方が異質だ。
三角屋根に大の字で寝転がっていびきをあげているアカオニさんも……あ、落ちた。
でもすぐに起き上がって笑っている。それを見た周りの人も弾けたように笑い、そのアカオニさんにお酒を勧めていた。
本当に楽しそう。見ているぼくもなんだか楽しくなってくる。
「おー、チビちゃん、どしたーこんなところで一人で」
声をかけられたのはそんなとき。真っ赤な顔したワームさんがぼくの隣に立って顔を覗き込んできた。ワインを飲んだからそうなったのかなって思っちゃうくらい、ワインと同じ色をした竜鱗を持っていて、当然のように手にはワインボトルが握られていた。
「子供が出歩くにはちょっぴり刺激が強すぎるとこだぞー」
「え、えっと」
長い黒髪を揺らしながら、ぐいっとワインをラッパ飲みする。
「ぷはぁ……父ちゃん母ちゃんのおつかいか? んん〜?」
ワームさんの性格はおっとりとしたイメージだったけど、この人はすごく豪快そう。ウシオニさんに近い雰囲気を感じる。
「迷子なら上まで案内してやろうか?」
「い、いま来たばかりです、あの、ちょっと用事で」
「ほうほうふーん、名はなんてんだ?」
ぐいぐい来る人だなぁ。
「て、呈って言います」
「テイ、呈。変わった名前だなー。でも……良い名だ。うちはメッダー。ここに住んでる」
「あ、ありがとうございます、メッダーさん」
ワームさんがぼくの前を這い歩いていく。ちょっと進んだところで、こっちに振り向き怪訝な顔で首を傾げた。
「ついてこないのか?」
今度はぼくが首を傾げた。
「ここ初めてだろ? 案内してやるって言ってんだ。ほら来な」
「おー、メッダーがまたお節介焼いてるぞー」
「またかよー、前みたいに途中でほっぽり出すなよー」
「途中で酒に釣られてお節介終了にシャルドラゴニアン」
「酔いつぶれてお節介終了にドラネ・ロンティ」
「酒に呑まれてお節介終了にレスカティエ・デ・ルージュ」
「あっははははは! 賭けにならねー!」
「うるせー! 黙って酒呑んでろ! ていうかほっぽり出してねーし! あのときは案内してた娘が男見つけたから気ぃ利かせていなくなっただけだし!」
「案内していた娘に先越されてる! ぶわっ! 全魔物娘が泣いた!」
「てめぇええらあああああああッッ!!」
わーわーぎゃーぎゃーとどんちゃん騒ぎ。ジパングじゃあ宴会のときくらいしか見ない光景。でもここだと日常茶飯事なんだろう。
「ふふっ」
なんだか、楽しいや。
追いかけっこに興じているメッダーさんたちを見て、ぼくは自然と笑みがこぼれた。
「……すっごいなぁ」
どんちゃん騒ぎ。
道の往来もすごかったけど、巣の中心であるお城の中はもっとすごかった。番いの義みたいな催しがあったわけでもないのに、完全に酒池肉林の様相を呈していた。
「あっはははは〜真昼間からお酒飲むの最高〜」
「酒飲みセックス最高〜、上からお酒〜下から精液ごくごくだ〜」
ジパングでもよく見かける赤い肌の鬼アカオニさん二人が、城内の廊下で男性の顔と腰にそ
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