第四章 番いの儀:天の柱A〜竜翼通りA〜ドラゴニア城@


―2―

 さて今日はどこへ案内しようか。
 なんて。行く場所は決まっている。今日は国民の休日だからな。
 四人全員で母さんの準備した朝食を食べたあと、すぐに父さんと母さんはドラゴニア竜騎士団本部へと出勤した。国民の休日ではあるけれど、母さんたち竜騎士団には何にも代え難い仕事があるからだ。
「今晩は女竜会あるから、お鍋の中のシチュー食べてね。お外で食べるならそれでもいいわよ。ごめんね、ウェント、終わったあとちょっとしかエッチできそうにないわ」
「僕は大丈夫だよ。その分、終わったあとに向けて溜めておくから。デオノーラさまを慰めてきてあげて」
「まぁ、そのあたりはアリィに任せるわ。いい加減、腰を据えて相手探せばいいのにね。そうすれば『番いの儀』の度に女竜会開かなくて済むのに」
「デオノーラさまは公務で忙しいから」
 なんて母さんと父さんのやり取りがあったのは朝食中のことだった。
 番いの儀での竜騎士団の仕事のあとは父さんだけは早めに家に帰ってくる。毎度のことだった。
「番いの儀?」
 当然、ドラゴニアに来たばかりの呈は知らないだろう。なんにしても呈は運がいい。狙わない限り観光中に見られることは滅多にないから。
 おれたちは早めに出て行った母さんたちに代わって朝食の後片付けと衣類等の洗濯をしている。観光客である呈には申し訳ないけど、どこか嬉々として手伝いを買って出てくれた。母さんはどこかこうなることを予期していたような気さえする。なんでだ。
 魔宝石を幾つか組み合わせ、石鹸水に水流を起こし、まとめて衣類を洗っていく。終わったら干し作業だ。ドラゴニアは強い風がよく吹くから乾くのは早い。急な雨には注意しないといけないけど。
「まぁ簡単に言うと結婚式だよ」
 籠いっぱいの洗濯物を外に運び出して、専用のスペースにある傾斜を利用したロープに吊るして干していく。空は快晴。風は冷たいけど心地いい。結婚式にはばっちりな天気だ。
 番いの儀。インキュバスとなり、ドラゴニアにおいて正式に雄竜と認められたものとその妻である雌竜が行う結婚式のこと。
「番いの儀が予定されてる日は国民の休日になって、基本的に皆休んで、天の柱に集うんだ」
「天の柱に?」
「うん。天の柱の頂上、番い鐘がある場所で式を行うから。母さんと父さんたち竜騎士団はその新婚夫婦を先導する役目を担ってる」
「その人たちは自分で登ったりしないの?」
「しないしない。天の柱に登る必要があるのは、竜騎士団の隊長になる竜騎士と騎竜だけだから。普通の結婚する人たちは、自分たちだけで登ったりしないよ。まぁ妻がワイバーンだったりドラゴンだったりしたら変わるかもしれないけど。基本、竜騎士が先導する」
 例えば空を飛べないワームとかリザードマンとか。竜騎士の騎竜が引く専用の竜車で運ばれている。落っこちないのは多分、魔宝石とか魔法でなんとかしているからだと思う。
「まぁ聞くよりは見る方が早いしもったいないから。このあと一緒に見に行こう。式自体は昼頃からだしな。楽しみにしとけよ〜、凱旋パレードは見ものだからな」
「スワローはこれまで期待を裏切ったことないもんね。すっごい期待させてもらうよ〜」
 ハードルを上げるのも慣れたものだ。実際すごいから何の心配もない。
 洗濯物など一通りの家事を終えたあと、おれは財布やリュックなどを持って呈と一緒に家を出る。目的地は天の柱……の手前の緩やかな傾斜の草原。少し先に天の柱がそびえ立っているのが見える。
 残念ながら天の柱までは行けなかった。人が多いから天の柱には当然入れないし、おれ個人でもそういう形で中に入りたくはない、というのもあった。
 天の柱の足元まで行けなかったのはだいたい家事をしていたせいだけど。
 ドラゴニアの人々や観光に訪れた人たちは草原に敷物を広げたり、そのまま地べたに座ったり、例えば相方の膝上に跨ったりして座っている。おれはリュックに入れておいた敷物を敷いて、呈と一緒にそこに座った。
 サバトドラゴニア支部の魔女っ子たちが巨大な水球を各所に浮かび上がらせていた。なんでも別の場所の映像をそこに映し出すという魔法らしい。これで天の柱に行かずとも番いの儀を見ることができるというわけだ。
「まぁ場所はアレだけど、ここの方が後々いいから」
「ぼくはスワローと一緒ならどこでも大丈夫!」
 ありがたいお言葉。
 時間的にはもう少し猶予があるか。何か適当につまめるものを買ってこれば良かったな。
「スワロー、お前も来てたか」
「こんにちは〜」
「セルヴィス。ラミィさんも。こんにちは」
 おれに後ろから声をかけて来たのは二人の男女。男は
#28976;そのものである赤竜の外套を身に纏った魔界銀の鎧を着ており、自身の身長よりも長い黒柄の槍を背負っている。アッシュブロンドの長髪の彼の
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