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竜皇国ドラゴニア。
ここは幾重にも連なる巨大な霊峰、その斜面を利用して広がる、巨大な山嶺国家だ。
かつては竜帝国とも呼ばれ絶大な力を誇った国だったらしい。しかし始まりの竜騎士と呼ばれる者たちと彼らと心を通わせあった竜たちの手によって、いまはこうして人と竜がともに手を取り合って暮らす国家として生まれ変わったそうだ。
ここに住む魔物娘の多くはドラゴンやワイバーン、ワーム、リザードマンなどのドラゴン属やそれに近しい種族ばかり。そうでない魔物娘も、ここに漂う竜たちの魔力のせいか竜に似た特徴を持ちやすい傾向にあるようだ。
「ドラゴニア領ってすっごく広いんだね。ここずっと見渡す限りドラゴニア領なんでしょ?」
「そうそう。昔かなり強かった反魔物国家だったらしいし、その領土からそっくりそのままいまのドラゴニアに変わったからな」
そろそろ街に入る頃。呈が山嶺の斜面に広がる景色を見て聞いてきた。
おれたちの目の前に広がる、高原地帯は全て明緑魔界となっている。高低様々な山々に囲まれて点在するその全てがドラゴニア領。背後の女王の住まう霊峰の山頂部とは対照的でとても牧歌的だ。
「ここからじゃ見えないけど、山脈の裏手にはドラゴニア大瀑布もあってやばいよ」
「やばいの?」
「全身身動き取れなくなるくらい」
「どれくらい近づいたのさ……」
「近づいたというか泳いだというか」
「大瀑布って泳ぐものなのッ!?」
とある友人の悪ふざけに付き合わされた結果である。死ぬかと思った。
なんて話をしている間にようやく着いた竜翼通り。女王の居城に続く一本の巨大な坂道を支柱としてまるで広げた竜の翼のように、幾重にも細かく小さな路地道が広がることから「竜翼通り」と呼ばれている。
主要な店はだいたいここに揃っているので、観光客も地元民も買い物をしたければここに来れば間違いがない。
「さっきも通ったけど、やっぱりここ、すごく人でいっぱいだね」
ドラゴン属の魔物娘のみならず、観光で訪れている多種多様な魔物娘たちや、その夫らしき人が竜翼通りを上へ下へと行き交っている。たまに独り身の男性も見かけるけど……あ、やっぱり路地裏に引きずり込まれていった。とまぁこんな感じですぐに他の独り身の魔物娘においしくいただかれる場所だ。
「ねぇ、スワロー。あそこはなんなのかな?」
呈が指差した場所は道路の端、円形の台が幾段にも重なったお立ち台のような場所。周囲には、赤の花弁を広げた花。「竜灯花」が段ごとにお立ち台を囲み、花壇のように彩っている。広さはぎゅうぎゅうに敷き詰めれば人が百人は乗れそうなほど。
「ああ、あれね。ドラゴンたちの発着場だよ」
「発着場?」
「うん、っと。ちょうど来たな」
大きな影がおれたちの頭上を過ぎた。直後おれと呈の視線の先に、緑鱗に覆われた体皮と大きな翼、長大な尾を携えたドラゴンがそのお立ち台にゆっくりと着陸した。
爬虫類のような鋭い顔立ちのドラゴンは、顔をぶるると左右に振り払うと、その姿がゆっくりと小さくなっていき、顔立ちにも変化が訪れる。そして瞬く間に灰褐色のロングヘアの少女となった。服はどこから現れたのか、豊満な胸を隠そうともしない胸開きのブラウスと丈の短いスカートを履いている。
この光景を見て、呈が「わぁ」と関心するように声をあげた。
「竜翼通りは人通りが激しいだろ。ドラゴンが竜の姿になっても安全に発着陸できるように整えられた場所なんだよ」
「じゃあ、あの花はその目印?」
「お、やるね呈。その通り」
「えへへ」
照れたように頬を染める呈。かわいい。
「目印に加えて、ドラゴンが勢いよく発着陸しないためでもあるんだよ。綺麗なものは散らしたくないだろ?」
「あ、ホントだ。さっきの着陸で一枚も花びらが散ってない」
竜状態のドラゴンはなかなかきつい印象を与えてくるけども、中身はあのとおり少女と変わらない。綺麗な花を散らせたいものは誰もいないだろう。
「まぁ、もう一つ理由があるんだけど、それはあとになればわかるから。言わないでおくよ」
「?」
夜になればいやでも察しがつくだろうし、楽しみは取っておいてあげよう。
「それで親の場所はわかる?」
「うん。魔力が感知できる範囲に近づいたみたい」
竜翼通りの「ワームの口づけ像」を過ぎて路地裏に入り少し歩いたところにある「竜の寝床横丁」までおれたちは歩いてきた。
二階以上の建物ばかりに加え、細く入り組んだ路地のため薄暗い。そのうえ竜の魔力が霧になるほど濃く具現しており、外の竜翼通りとは一変した雰囲気を放っていた。
「なんだか竜翼通りと全然違うね」
「ここは竜の寝床横丁だな。寝床という名の通り、そういう店が多いんだよ。おれは来たことないけど」
周囲にあるのは宿屋やら酒場、そして娼館など夜を表すような店
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