〜淫臭湯気〜
四島瑞樹(しじまみずき)ことこの僕が、一日の中で唯一楽しみにしていることがある。それは陸上部である。ただし、別段俺は走ることが好きなわけではないし、元より陸上部ではない。
陸上部の何が楽しみかというと、陸上部に所属している熟山柚菜(みのりやまゆずな)が楽しみなのである。だが、どこぞの熱血コーチよろしく柚菜の走りに興味があるわけでもないし、着々と長距離走のタイムを伸ばしつつ彼女に今後の期待を寄せているわけでもない。
僕が楽しみにしているものはもっと即物的で、陸上を終えた柚菜そのものだ。
僕の彼女、熟山柚菜。ジャイアントアント特有の性臭放つ汗の薫香。それを身体全身にムンムンと沸き立たせ、湯気立つほどに蒸れた身体を作るために彼女は走る。部活動直後のすっかりと出来上がった彼女を迎えることが僕の、一日の唯一のお楽しみの時間だ。
神代高校は夏休み。しかし部活動は絶賛行われており、陽も照っていて、今が一番暑い時間帯だ。外は太陽が燦々と眩しい。
ここは旧校舎の空き教室。僕は午後になってここへ入り込み、悶々と過ごしながら、柚菜が来ないか今か今かと待ちわびていた。ひとっ走り終えたら行くと言っていたが、なかなか来ない。よほど走っているのだろうか。と、そのときだ。
――来た。
ガラッとドアが勢いよく開け放たれる。そこにいたのは一人の少女。黒髪ショートカットの髪型で、ちょっと目つきがキツイが、非の打ち所が無い整った顔立ちの可愛らしい超絶美少女だ(お世辞でも何でもない。事実である)。
彼女が僕の彼女、熟山柚菜(みのりやまゆずな)だ。
柚菜は首まで覆うスポーツ用の黒インナーを着ていて、下も小さい蜘蛛のワンポイント柄あるだけの黒のショートパンツのみ。ブラもパンティもなし。
健康的なほどよく肉がついた腕や脚、手で包めないほどの豊満なおっぱいにインナーがぴっちりと張り付いて、むちむちとした肉感と、むわむわに蒸れていそうな黒光りの光沢がインナーに表れている。
今の柚菜は陸上部の活動をしていたので今は下半身は人間のものだ。甲虫のそれとは違う。ちなみに僕はどっちも好きだ。肉厚な人間の足も、黒光りする節足も。汗が加われば最高にたまらない、僕だけの足へと昇華するのである。
「はぁはぁ、んんっ、はぁ……」
汗だくで息も絶え絶えの彼女は後ろ手でドアを閉める。ついで、といったように何かの細工を施したらしい。部屋の様子が変わった。多分、外界との繋がりを絶ったのだろう。
柚菜は汗を顔中、いや体中に遠目で見るだけでわかるくらいに浮かべているが、そんな状態でも彼女は汗を拭おうとはしない。というより僕がそうお願いしていた。
「待ちくたびれたよ、柚菜」
柚菜とは一年ほど前からお付き合いをさせてもらっている。付き合うことになったきっかけは、まあ一言で言うと、彼女の汗の匂いが好みだったので告白したらOKをもらえた、それだけだ。
ああ、この距離でもわかる。すごい匂いだ。訂正。臭いだ。汗のむわぁっとした、濃厚な、鼻をギュッと締め付けるキツイ臭い。それが彼女から立ち込めている。部屋を覆い尽くさんとしている。
「はぁはぁ……」
「柚菜?」
一歩、柚菜が足を踏み出す。臭いは一段と強くなり、さらに踏み出せば全身に臭いが絡みつく。
柚菜の目はどこか虚ろで、まるでフルマラソンを終えたランナーかのようだった。いや、フルマラソンかは知らないが実際かなりの距離を走ってきたのだろう。
そして、まるで押し倒してしまいかねないくらい勢いよく迫ってきた柚菜は、僕に抱きつくと、
「んぐっ!?」
「んちゅ、ちゅるちゅっちゅっりゅれっろれるちゅるるるるるる」
僕の口を自分のもので塞ぎ、そのまま口内へ舌を侵入させた。まるで貪るような熱いキスだ。いや実際に貪られた。柚菜の渇いた舌は僕の口の中の水分、つまり唾液を舐めとり飲み下していくのだ。内頬、歯茎、舌、さらには喉奥にまで舌を縦横無尽に動かして、僕の口の中を陵辱していく。
五分か十分か、体感的にはそれくらい貪られてようやく解放された。口の中がカラカラである。
「ぷはぁっ! はぁー生き返ったぁ」
「ぷはっ、はぁはぁ……きょ、今日は情熱的だな、柚菜。はぁはぁ、お、遅かったし、溜まってた?」
「いやぁ、あはは、今日は特にいっぱい走ったからさ。喉渇いて渇いて。たまらず瑞樹の唾液飲みまくっちゃった」
いたずらっ子ぽく舌を出して笑う。鼻血出そう。というか精液出そう。ジャイアントアントのフェロモンは今現在僕の理性を削ぎ落とし中なのだ。
「ちなみにどれくらい走った?」
「42.195km」
「フルマラソンかよ!」
ガチで走ってやがった。いや、望むところだが。それだけ汗を熟成させてくれたことに土下座したいくらい
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