第一話「心を犯す脳姦」


―1―

「ビール六人前、ただいまお持ちしましたぁ!」

 ニゲル共和国の北部に位置する町カストレア。そこの小さな酒場“夢見亭”の看板娘エイミーこと私は、今日も酒場で取り柄の元気さで酒場の中を駆け回っていた。店内はお客さんで半分以上席が埋まってて、私一人だとなかなか忙しいのだ。
 この酒場をお父さんお母さんと三人で慎ましやかに経営していて、裕福とはいかないけどそれでも充実な暮らしを送っている。
 酒場経営は色々な人とお話ができるし、時には旅人がやってきて、ワクワクする冒険のお話も聞けてすごく楽しい。まぁちょっぴりセクハラまがいのことをしてくる常連さんもいるんだけど、そこはご愛嬌。お父さんが懲らしめてくれるし。それでも常連さんは止めてくれないんだけどね。あの情熱はどこから来るのだろうか。

「キャッ!?」

 とか思っていたらその噂の常連さんにお尻を触られた。そしてお父さんがカウンター奥からやってきて常連さんの頭をグリグリ。懲りない人だよ、ホント。
 やっぱりこの服のせいかな。ディアンドル衣装。お母さんの趣味か胸のコルセットのせいで胸の北半球が露出しちゃってるし、裾まで刳った白ブラウスと、私の髪色と同じ若草色のエプロンにはフリフリがいっぱい。スカートはくるぶしくらいまであるけど、上の防御力が貧弱なんだよね。なのに、この人はお尻ばっか狙ってくるけど。
 とは言っても、このやり取りでお客さん皆が笑ってくれて活気づくからいいんだけどね。お尻触られるのはやっぱりヤだけど。

「エイミーちゃんのお尻は年々プリプリしてくるなぁ。肉付きがよく、ててててててて! 旦那! それ以上グリグリされたら脳みそ出ちゃうって!」

 私はさっとお尻を隠す。お尻大きくなっているのかな。うーん、ちょっと甘いもの食べ過ぎなのかもしれない。お尻大きい女性って嫌われるかな。

「こんばんはー! ブルーリカーでーすっ!」

酒場の裏口の方から青年の声がした。途端、私はうるさい店内で胸がトクンと高鳴るのを聞く。最近はいつも彼が来る度に、こんな感覚に陥っていた。

「カイトだな。おい、エイミー、納品チェックして来い」

 お父さんが首でクイッとしながら裏口へ行くように言ってきたので、私はお盆をカウンターに置いて裏口の方へ行く。最近お父さん、卸しの手伝いをよくさせるなぁ。もしかして、空気呼んでくれているのかな……? まさか、ね。
 裏口の前まで行くと、そこに酒瓶が何本も入ったケースを担いだ青年がいた。
 いつも優しげな微笑みを浮かべている黒髪の青年。ちょっぴり頼りない感じもするけれど、シャツと長ズボンに紺色の前掛けを着た体格は意外とがっちりしていて逞しい。

「こんばんは、エイミー」
「こ、こんばんは、カイトくん」

 夜の挨拶を交わす。つい声が上ずってしまった。変に思われていないだろうか。私を見て、カイトくんは柔和な笑みを浮かべるだけで、特に反応はしてない。よかった、気づかれなかったみたい。

「ちょっと待っててね。すぐ運んじゃうから」
「じゃあ、私、納品チェックするね」
「うん、お願い」

 仕事上のやり取りだけまず交わす。入念に私は酒瓶の数と納品数を照らし合わせた。身体がお酒飲んだみたいに火照っちゃってるし、ここは気をつけて数えないと。

「よいしょっと。これで納品はおしまいっと」
「うん、ちょっとまってね。ひぃ、ふぅ、みぃ……うん! 数もバッチリ。ありがとね、カイトくん」
「こっちこそいつもご贔屓に」

カイトくんはこの町の酒屋さんの一人息子で、いつも父に変わって酒を町中の店や商人たちに卸して回っている。誰にでも気さくな感じで、町でも評判はいい。お酒の質も外から流れてくるものより高くて、すごくおいしいのだ。

「ホント、カイトくんのお父さんはいい仕事するよね。常連さんたちは必ずカイトくんとこのお酒を注文していくよ」
「それはありがたいなぁ。……前住んでたとこでは酒場がなかったから細々としか売れなかったから」

 前住んでいたところ。五年前、国境付近の小さな村からカイトくんはこの町へやってきた。そこで何があったかは詳しくは知らないけれど、お母さんが不慮の事故で亡くなったらしい。きっと私が想像もつかないくらい悲しい出来事だったのだろうけど、そんなことを全く感じさせないくらい普段のカイトくんは朗らかで優しかった。
 でもやっぱり、前いた村のことを話すときはどこか影が見える。辛く感じているなら癒してあげたい、と思うけれど私なんかにできることなんて何もなかった。こうして前に立つだけでも心臓バクバクなのに、気の利いた台詞なんて言えるわけないよ。

「エイミー、今日はここで晩御飯済ませようと思うんだけど、席空いてるかな?」
「え? あ、う、うん! もちろん空いているよ! あ、も
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