第三車両「カミカミトレイン」

「大丈夫かい?」

僕が先輩と出会ったのは、電車の中の、しかも魔物娘専用車両でのことだった。
僕は神城高校進学とともに神城町の隣町へと引っ越してきて、しかも田舎出なものだから、電車の中に魔物娘専用車両なるものがあるとは知らなかったのだ。だから、なんの考えもなく入学式当日、そこへ乗ったわけである。

入って早々、違和感は感じた。何故なら、普通の電車では決して匂わないような、甘酸っぱいエッチな匂いと、少し見に覚えのある生臭い臭いが混じりあったものが鼻をくすぐったからだ。
さらに、電車の中には男性の姿が見当たらず、また人間の女性の姿もない。いているのは、異種の姿をした魔物娘。エロティカルな美貌を持つ、魔物娘だったのだ。

ここまで来ても僕はなにも気づかなかった。ただただ都会は魔物娘が多いんだなーと考えていた。僕の田舎はそんなに魔物娘はいなかったように思える。同級生に二、三人だった。

朝の時間でありながら、それほど混雑はしておらず、向かい側の席が空いていた。僕はそこに座ろうと歩を進めるのだけど、

「ふふ。やあ、私と良いことしようじゃないか」

「えっ?」

僕が電車の真ん中辺りに来た途端、その言葉とともに後ろから抱きつかれたのだ。生々しい、柔らかな胸の感触が背中に広がった。
驚きに身体すくめていると、その女性はいきなり僕の股間に手を伸ばしたのだ。

「な、なにを」

顔を後ろへ向ける。女性の顔を見て、僕は息を飲んだ。
褐色の肌に長い耳を持つ類い稀な美貌を持った女性だったからだ。その容姿は間違いなく魔物娘。僕よりも数センチ背が高く、モデル体型なのだろうと容易に想像がつく。

「なにをそんなに慌ててるんだ?ここがどういうところか知ってるんだろう?知ってて入ったんだろう?犯されたくて入ったんだろう」

お姉さんは悦の混じった笑みで僕を呑み込むように見据えてくる。
彼女がなにを言っているのか僕には全然わからなかった。なんでいきなり抱きつかれて、しかも犯されなくてはならないのか理由がわからなかった。ていうか犯罪だ。

「や、やめてください」

「やめないさ。せっかくの獲物だ。逃さないよ」

「ちょ、ズボン脱がそうとしないでくださ」

「ああ、脱がすぞ。公衆の面前で君の逸物を晒してやるぞ」

「だ、誰か助け」

そして、ベルトを外され、もう今にも脱がされかかろうとした瞬間だった。

「あー!いたいたっ!なんでこっちの車両に乗ってるんだい!?」

そんな声が僕に向けて言われたのは。
僕は反射的にその方向へと顔を向ける。そして息を飲む、どころか息が止まった。時間が止まったかと思った。

まず目を見張るのが金髪のセミショート。それを映えさせる絹より純白な、シミやニキビ一つない肌。異国の血が混じっていると思われる海より深い蒼の瞳。薄く朱が差した頬。薄紅色の淡く濡れた唇。そのどれもが宝石のように眩しく輝き、僕の心を魅了した。まるで心臓を鷲掴みにされているような、そんな息苦しさも感じさせられた。

「もう。君は本当におっちょこちょいなんだから」

ブレザー姿の彼女はこちらに近づきながら、呆れたように笑っていた。




「ボクの名前は芹沢赤音(せりざわあかね)。神城高校二年だ。よろしくね」

前の車両に移動してから、僕は先輩に色々と教えてもらった。
魔物娘専用車両は魔物娘が乗客を逆レイプしても許される車両のこと。僕はそうとは知らずそこに乗ったため、あのアマゾネスのお姉さんに襲われそうになったのだ。たまたま居合わせた芹沢先輩は、見ず知らずの僕を助けてくれたらしい。

「こう見えても、ボクは風紀委員をしているからね。後輩にあたる君が性的に襲われそうになっているんだ。風紀を正すものとして見逃しはできないのさ」

「本当にありがとうございました。もう、びっくりしてどうにかなりそうでしたよ。……ってどうして後輩だって?」

「ふふ、そんなにソワソワしているような子が二年以上なわけないじゃないか。どこからどう見ても、初めての高校生活に緊張している一年生のソレだよ」

そう言って先輩はイタズラっぽく笑う。そんなにソワソワしてたかな、僕。

「これから会うこともあるだろうから、よろしくね。ええと、」

「あ、岸部友紀(きしべともき)です」

「そうか、友紀くんだね。うん、よろしく」

「っ!」

下の名前で呼ばれてしまって、僕はつい言葉に詰まってしまう。差し出された手に驚いて、手を出すのに時間がかかってしまった。

「よ、よよろしくお願いします!芹沢先輩!」

握手をかわして、どうにか汗が出ないように堪える。うわ、先輩の手、柔らかい。

「うん。あ、でも、ボクのことは赤音って呼んでほしいかな」

笑顔で一言。先輩の手を握ったまま僕は硬直してしまった。

「……そ、そんな
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