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「よっと……」
落とし穴の罠を浮遊魔法でかわす。
「ふぅ、これで五回目だな。芸がない」
俺はため息をついて地面に着地した。光魔法で照らした周りを見渡す。縦に広がった一本道。取りあえず、これ以上の罠はないようだ。
俺はとある砂漠地帯の遺跡に来ていた。地上からはそれほど大きくはないピラミッドに見えたが、中はかなり深く広い。ただ単なる建造物ではなく、魔術的な作用も施しているのであろう。見た目以上に広かった。
俺がこの遺跡に来たのは教団の命であった。
『勇者カーター・ランドよ。貴方には今回、遺跡の調査を行ってもらいます。西にある砂漠の中央。そこに立つピラミッド内に復活したファラオを抹殺、及び浄化をするのです』
そう。砂漠の王ファラオの調査および抹殺依頼である。
それに勇者である俺が派遣されたのだ。単身でである。一人でである。お供もなにもない。
まあ、このような遺跡には魔物化を促す罠もあるし、一人が堕ちれば続けてそいつが仲間を襲うこともある。一人の方が安全といえば安全であった。
それに遺跡として難易度はさほど高くはない。何度か魔物と対峙したが、今のところ全戦全勝。全て撃退できている。
怖いくらいに順調だった。
「しかし、いつになれば着くことやら」
砂漠まで五日、砂漠から遺跡まで二日。遺跡に侵入してからは三時間。いまだなお最深部へはたどり着けない。水やら食料やらは途中で補給し、十分に持ってきているが、これでは調査が明日にまで差し掛かるかもしれない。
幸いなのは魔物の襲撃がなりを潜めていることか。もう一時間はなにもしてこない。嵐の前の静けさといった不気味さもあったけれど、徹底的に実力差を見せての撃退だから下手なことはしてこないだろう。
魔物とは言え、生き物に変わりはない。無駄な殺生はしたくないのだ。
それは教団の教えに背くことではあるが、俺には俺の信条がある。例え悪でも全く更生の機会も与えずに殺してしまうのは、それも悪ではないかと俺は思うのだ。いや、教団が悪と言いたいわけではない。ただ、殺してしまえばいいという簡単な道に走ってしまうのは、よくない
と言いたいだけだ。
なのであまり魔物の襲撃は勘弁願いたい。余裕がなくなれば、手加減できなくなる。生かすことができなくなる。だから出てきてくれるな。
「ファラオも、降伏してくれればいいんだけどな」
人間を傷つけないと誓ってくれれば、こちらも武力に訴えなくて済む。平和的に解決できるのなら、それに越したことはない。砂漠の王が話のわかるやつであることを切に願う。
罠はなおも続いた。火攻め水攻め刃物攻め落とし穴。などなど。魔物の襲撃こそないものの、罠の頻度や巧妙さは明らかに上がっており、奥深くへとかなり来ていることがわかる。
それに遺跡の造りが明らかに変わってきていた。
最初は粗雑な石造りの壁であったが、今はツルツルのよく磨かれた壁へと変わってきている。それに広場的なものも多くなってきており、小部屋がいくつもあった。驚いたのはそこには生活臭があったこと。魔物たちはここで生活をしているのだ。
俺は恐らく居住区であろうその区域を抜ける。すると内装は明らかに変わった。
土埃は一切ない。壁や床、天井にいたるまで清掃が行き渡っており、光の反射が眩しかった。顔を近づければそれに映るほどだ。しかも、豪奢な装飾が至るところになされている。
王の間が近いのかもしれない。
巨人も歩けそうな道を進む。そして突き当たりにあったのは巨大な扉だった。
重々しい鋼鉄の、きらびやかな金銀と宝石で装飾された扉。そして、その扉から漏れ出す濃い魔力の混じった空気。
間違いない。ここに砂漠の王ファラオがいる。
俺は扉の前に立つ。扉を開けようと手を伸ばすが、扉は俺が触れる前に独りでに内へ開いた。
ゴゴゴと重々しい音ともに眼前に広がるのは暗黒。真っ暗闇の世界。
俺は光魔法で足元を照らしながら、一歩踏み出す。
その瞬間だった。
「ようこそ、僕の王国へ」
よく通る女の声。
同時に、暗黒の世界に光が灯った。あらゆる場所に設置されていたランプに火とよりも強い光を放つものが灯り、全てを照らし出したのである。
そこは玉座であった。
入り口から赤絨毯が伸び、向こうの階段を経て玉座まである。天井は巨人も軽々立てそうなほどに高く、壁や天井を支える支柱には色々な細工が施され、玉座として相応しいと言える内装であった。目が眩むほど。
しかし、俺の目をもっとも眩ましたのは玉座に座っているその人。
女。見目麗しい絶世の美女。思わず跪きたくなるほど、名状しがたい妖艶な女。
変わったうねりのある王冠を被り、金と青の斑模様の髪留めをつけている。髪は腰ほどまでの長い黒髪で、前髪はまっすぐに切り揃えられ、赤い瞳が妖しく光っ
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