魔法の泉と、恐怖のローションガーゼ

8月15日、晴れ、午前中―――――

今日はブレイブハート・アカデミーのカリキュラムにおいて、一日完全自習の日と定められている。

他のバディたちは各々の課題克服のための修行に励んでいたり、あるいは部屋にこもって愛し合っていたり・・・・・・。そんな中、僕とジョアンヌはアカデミー内の道場にて、剣の稽古に励んでいた。

真夏の陽射しが道場の窓から差し込み、埃がキラキラと舞っている。静寂を破るのは、僕たちの荒い呼吸と、踏み込む足音、そしてスポンジ剣がぶつかり合う軽い音だけだ。

「そこッス!」

鋭い掛け声と共に、ジョアンヌの持つスポンジ製の剣が、僕の左肩を狙って振り下ろされる。僕は目を見開き、その軌道を「視て」いた。風を切る音よりも速く、肌を刺す気配よりも鮮明に。

(・・・・・・見える!)

視覚情報に加え、研ぎ澄まされた『心眼』が、彼女の攻撃ルートを光の線として脳裏に描く。それはまるで未来予知のように、彼女が振るう剣の軌跡をあらかじめ僕に教えてくれる。僕はそれに反応し、身体を捻って回避しようとした。

ポコンッ!

「あ痛っ!?」

しかし、僕が動くよりも早く、ジョアンヌの剣が空中で軌道を変えた。左肩を狙っていたはずの剣先が、まるで生き物のように跳ね上がり、僕の脳天を正確に捉えていたのだ。スポンジ剣ゆえの軽い衝撃と共に、僕はたたらを踏む。

「まだまだッスね、マコト! フェイントへの反応が遅れてるッスよ〜!」

ジョアンヌが楽しそうに笑う。悔しい。見えているのに、反応できない。

「くっ・・・・・・! もう一本!」

僕はスポンジ剣を構え直すが、結果は何度も同じだった。右から来ると分かっていても、防ごうとした手元をすり抜けられ、脇腹を突かれる。後ろに回られた気配を感じて振り返る頃には、既に喉元に切っ先を突きつけられている。いかに心眼で動きが見えていようとも、見えていたはずのジョアンヌの攻撃が、その寸前で霧散して変わっているような感覚を覚えるのだ。

「そこまでッス!」

鍛錬の時間はここまでだと、ジョアンヌの声が道場に響く。僕は息も絶え絶えに、道場の床に大の字になって倒れ込んだ。天井の木目がぐるぐると回って見える。

「はぁ、はぁ・・・・・・。参りました・・・・・・。全然敵わないや」

「でも、反応はすごく良くなってきてるッスよ! 最後の一撃なんて、あと数センチで躱せそうだったッス!」

ジョアンヌが僕の顔を覗き込み、冷たいタオルで汗を拭いてくれる。彼女は嬉しそうにニパッと笑った。その笑顔には、師としての厳しさと、バディとしての慈愛が混ざり合っている。

「・・・・・・不思議なんだ」

僕は天井を見上げながら、整わない呼吸の中で呟いた。

「『心眼』で見えているはずなのに、どうしてジョアンヌのフェイントだけは読み切れないんだろう。他の相手なら、動き出す前に分かるのに」

先日の『動くスイカ割り』では、目隠しした状態で、不規則な風船の動きさえも見切れた。けれど、ジョアンヌ相手だと、見えているはずの未来が霧散してしまうような感覚に陥るのだ。

「ふふっ、それは当然ッスよ。マコトが使ってる『心眼』の理屈を考えれば分かることッス」

「理屈?」

ジョアンヌが人差し指を立てて、解説モードに入る。とてもかわいい・・・

「マコト、この『心眼』は何でもお見通しだ〜〜っていう便利な力じゃないッス。これは本来、血と汗を流した厳しい修行の末に身につく、研ぎ澄まされた『経験則』や『洞察力』の極致ッスよ」

「経験則・・・・・・?」

「そうッス。相手の重心、視線、呼吸、筋肉の収縮、音でさえも重要ッス!・・・それら無数の情報を瞬時に統合して、例え目を閉じていようとも次の動きを予測する技術。それが心眼ッス」

「でも、僕はそんな達人みたいになるまで修行をした覚えはないけど・・・・・・」

「そこで『フルソウルリンク』の出番ッス!」

ジョアンヌが僕の胸をトンと突いた。

「私たちが結んだ魂の契約・・・・・・あれを通じて、私がヴァルキリーとして長い年月をかけて培ってきた修行や戦闘経験の一部が、マコトにも少しずつ流れ込んで、会得できているという訳ッスよ」

「えっ、ジョアンヌの経験が僕に?」

「そうッス。そのパスがガッチリ繋がるきっかけになったのが・・・・・・あの『ブラジャー目隠し』の修行だったッスね」

あの日、視界を塞がれた状態で、彼女の気配(オーラ)を感じ取ろうと必死になったあの瞬間。あれが、ジョアンヌの持つ膨大な戦闘データへのアクセス権を開放する鍵だったというわけか。理屈はイマイチ納得できないが、出来たのだからまあいいか・・・。

「だからマコトは、こんなにも早く素人離れした動きができるようになったッス」

ジョアンヌが悪戯っぽく笑う。それだけ
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