8月14日、晴れ、昼―――――
「諸君! 本日のカリキュラムは、夏ならではの特別演習を行う!」
冷房の効いた講堂に、エミリア塾長の高らかな宣言が響き渡った。 ジャージ姿で整列した僕ら勇者候補生とヴァルキリーたちの前には、え描かれた魔法陣によって怪しく発光し、不規則に高速浮遊する無数の「緑地に黒のしましま模様な風船」が用意されていた。
「その名も・・・・・・!『ブレイブハート・アカデミー名物・動くスイカ割り』だ!!!!」
ざわめく生徒たちを無視し、塾長はルールを説明する。
目隠しをした状態で、飛び回る「スイカ(風船)」をスポンジ剣で叩き割れば合格。
目隠しを外す等の不正以外であれば、バディとの連携、魔法、第六感・・・・・・あらゆる手段を用いて構わない。
「なお、制限時間は一人10分。時間内に割れなかった不合格者は・・・・・・」
塾長の目がサディスティックに細められる。即座に皆の背中に嫌な予感が迸る。
「即座にバディによる『ローションガーゼの刑』に処すものとする!!」
「「「なっ、なんだってぇぇぇぇぇぇ!?」」」
何時ものように、講堂が揺れるほどの絶叫が上がった。 『ローションガーゼの刑』。それはザラザラとしたガーゼにたっぷりとローションを染み込ませ、敏感なイチモツをキュッキュと執拗に磨き上げられる、溢れんばかりに襲い来る快楽がちょっぴりの苦痛となる恐怖の拷問だ・・・・・・まだ僕は一度も受けたことがないけれど。
「じゅ、10分!?しかも目隠ししながらであんな動きの風船を!?」
「無理だ!当たるわけねぇよ!」
「イヤだぁぁぁ!俺!昨日だって1時間も磨かれて気が狂いそうだったっていうのに!もうアレは嫌だぁぁぁ!!!」
今更の事ながら、ブレイブハート・アカデミーで執り行われる実技や突発イベントなどは、非常に難易度が高い。正直言って初見でクリアできるように考えられていないようなお題目ばかりなのだ。で、クリアできなければ当然待っているのは「ローションガーゼの刑」である。多種多様なお題目たちに敢え無く散っていった勇者候補達は、結構な回数・・・ローションガーゼでその股間をピカピカに磨かれているという訳だ。
各々がその甘美なおちんちん磨きを散々分からされているからこそ、パニックに陥る候補生たち。対して、ヴァルキリーたちは「失敗したらたっぷり可愛がってあげるわ
#10084;」と、既に手元のガーゼとローションボトルを準備し始めていた。卑しく輝くその瞳は早く自分の勇者様の聖剣を磨きたいと顔にしっかりと書かれており、この特別演習に対する協力は期待できそうにないと物語っていた。
「ふっふっふ〜♪マコトの連続不敗伝説も今日で終わりッス♪今日という今日こそはピカピカに磨いてあげるッス♪」
「はははは・・・・・・僕も年貢の納め時なのかなあ・・・」
目を爛々と輝かせるジョアンヌ。その手に握ったガーゼが激しく左右に揺れ動いている。
「まずは手本を見せてもらおうか。・・・前へ出ろ、園崎マコト!」
指名された僕は、覚悟を決めて目隠しを装着し、スポンジ剣を構えた。 視界は一面くまなく闇に閉ざされ、風船が「ビュン!」と空を切る音だけが聞こえる。 普通ならやたらめったらに振っても掠りもしないだろう。だが、僕にはあの夜、ジョアンヌのブラジャーを目隠しにして特訓した経験がある。
(・・・風を感じろ。気配を感じろ。・・・見える!)
カッ! と脳裏に閃きが走る。
僕は迷わず、身体を半回転させながら剣を一閃させた。
パーーーーンッ!!
乾いた破裂音が響き、目隠しを外すと、そこには見事に割れた風船の残骸があった。
「見事だ! 合格!」
「ううぉぉぉ!今回もやったッス!さすがマコト!私達の愛の力が生み出した『心眼』を使いこなしてるッスね!」
誇らしそうに、嬉しそうに抱き着いてくるジョアンヌ。それに対して、周囲の反応は絶望的だった・・・何故ならば。
「い、いやいやいや! 心眼って何だよ!見えてたって当たりそうにないくらいビュンビュン動いてたのに!」
「あんな達人技、真似できるかぁっ!!嫌だ!俺は部屋に戻らせてもらう!!放してくれぇぇぇぇ!!!!」
「くっくそ・・・何にも参考にならねえし、バディは磨く気満々でアテに出来ねえだろ・・・?」
正攻法では無理だと悟った候補生たちは、一斉にある人物を探した。 7年越しの執念でブレイブハート・アカデミーでの出来事の、ありとあらゆる攻略法を熟知している男、伊織コーイチだ。彼なら、この理不尽な動きの「法則」を知っているはずだと。
「おいコーイチ! 頼む、攻略法を教えてくれーーっ!!!」
視線の先、講堂の隅。そこにコーイチはいた。
・・・いたのだが。
「んぐっ・・・・・・! むぐぅっ・・・・・
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