Tips・・・対魔結界発生塔
グラン・フォグリア王国における対魔物用の防護結界、グラン・フォグリア王城の四方を囲むように結界の発生塔が建設されている。
大半の魔物娘にとっては結界内部の居心地がちょっとここには入りたくないな・・・と感じてしまう程にすこぶる悪くなるという代物。しかし圧倒的な力を持つ魔物娘までは通用しない。
結界の発生塔の内部は巨大な魔法石が鎮座されており、この魔法石をミシェーラの魔力で魔に染め返すことで結界の効果を反転させることが、今回のグラン・フォグリア攻略戦における、ハロルドとミシェーラの作戦目標である。
Tips・・・魔界勇者ハロルド
人間として生まれ落ち、勇者としての力も他の追随を許さぬ強者だったが・・・魔物娘のリリムたるミシェーラとの数えきれない程の交わりを経て、身体はインキュバスに、勇者の力はすっかりと跡形もなく搾り取られてしまった。
しかし搾り取られた勇者の力は代わりに愛しきミシェーラの魔力が満ち満ちており、勇者として堕落する前よりも純粋な強さは比べ物にならない程に圧倒的に高まっている。
得意技は雷の魔法を剣に纏わせ、一気に周囲を薙ぎ払う回転斬り、“雷華一閃 (らいかいっせん)”である。
――――――――――――――――――――
満月の夜まで後3日、グラン・フォグリアまで残り半日程度の道すがら。ハロルドは街道を1人で歩いていた。
何時も隣りに寄り添う愛しき伴侶であり、リリムのミシェーラはここには居ない。ミシェーラから贈られた黒い角飾りの細剣も腰には帯びられていない、代わりに背中へ勇者の剣を背負っている・・・まるでミシェーラと出会う前の恰好である。
何故ならば、ミシェーラと自分は別行動を取っているのだ。その理由は主神教団の陰謀に対するもの、そして別行動をすべきだった理由が案の定と言わんばかりにやってきた。
ハロルドの眼前から、主神教団の制服を着た兵士の一団がやって来たのだ。
その数にして十数人以上、腰には帯剣されている。その一団の先頭をゆくのは老剣士、されど妙に迫力を感じさせる。ハロルドの勘が、あの老剣士は危険だと告げていた。連れた他の一団など束になっても敵わない、比べ物にならない強さを誇るだろうと見立てる。
「貴公・・・ハロルド・カーライルだな?」
「あぁ、そうだが・・・教団の兵士の皆様が揃ってこんなところで何を?」
「警告する、背中の勇者の剣を鞘ごとその場に落とせ」
低く響く冷酷な声で告げられる武装解除の警告。老剣士は見た目通り・・・いや、それ以上の迫力を持ってハロルドを威圧してくる。
警告に従わねば命の保証はしない、とでも言いたげに鋭い眼光がハロルドの背に吊られている勇者の剣に向けられ続けている。
「うぉっと・・・一体どうい」
「警告する、勇者の剣を鞘ごとその場に落とせ」
「・・・分かりましたよ・・・・・・ほら、言う通りにしたぞ?」
交渉の余地すら無いらしい、仕方無しにハロルドは背中に吊った勇者の剣を鞘ごと抜き取り、その場にそっと落としてみせる。
「そのまま3歩前に、その後その場に跪け」
―――――懐かしいな・・・グラン・フォグリアで習った対脅威者拘束手順だっけか
心の中でつぶやくハロルドに有無を言わさずに次の指示が飛んでくる・・・覚えのある手順、これは罪人を拘束するための手順である。ハロルドに対し武装解除と拘束、奴らはハロルドを生け捕りにしようと試みているのだろう。
大人しく3歩前に、その場に跪いたハロルドに対し、その首筋に老剣士がいつの間に抜いたのか鈍い銀の輝きを突きつけてくる。
本能的な忌避感を堪えていると、ハロルドの目の前に黒い布による目隠しが通される。さらには耳栓までも抜かりなく・・・全くの暗闇の中、兵士達に手を引かれ、何かの乗り物に乗せられて、何処かへと連行されるハロルド。
とはいえ移送先は大方検討が着く。それはグラン・フォグリア上層街、出来ればグラン・フォグリア王城の何処か、最悪主神教団の屋敷か何かにハロルドは監禁されるのだろう。
―――――全く、全部が全部想定通りだと逆に張り合いがないな。
ハロルドの独り言の通り、実の所この状況は全くの想定通りだった。
フォグレイブの情報屋に敢えて情報を流してもらったのだ。“勇者ハロルドがフォグレイブを明日、出立する”のだと。
ミシェーラはその前日にグラン・フォグリアへと出立していた。彼女は入国した後に、グラン・フォグリアを攻め落とすための様々な手筈を整えるために。
―――――また、すぐにお傍に参ります。
後ろ髪を引かれる想いでミシェーラを見送った日、愛しい彼女の温もりが恋しく1人寝苦しい思いをした。たった一晩だけのこと、されど長く苦しい孤独の夜、ミシェーラだけを想う夜だった・・・
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