勇者レベル100、状態:ふつう、所持金:2,401,856ゴールド

勇者レベル100、状態:ふつう、所持金:2,401,856ゴールド
装備品:勇者の剣、聖なる鎧
大切な物:勇者の割符


「見間違いじゃない・・・蜃気楼の町は本当に実在したのか」

小高い丘から見下ろした先、その眼差しがしっかりと捕えたその先に、小さな町が確かにあった。距離にしてここから歩いても1時間はかからないだろう距離、空を見上げれば日も沈み始めるころ・・・男は思わず安堵の溜息をついた。

何故ならば魔王の城までは現在地から歩いて後2日かかる見込み、今来た道を3日程戻れば直近に立ち寄った町に戻ることが出来る。そして肝心な水に食料の残りは3日と少し・・・あの町で補給を出来なければ、いざ魔王の城で魔王を討つという責務を果たそうとも、帰りの道で干乾びる定めとなるだろう。

水に食料の補給は必須項目なれど、夜襲の心配なく宿で眠ることが出来るというのは、一人旅では何にも代えがたい魅力的な判断材料である。

「よし、あの町で十分に準備を整えてから、魔王の城へと出立しよう」

そう決断し、眼下の町へと歩き始めた男の名は“ハロルド・カーライル“・・・主神の名のもとに祝福を受けた一人の勇者である。


――――――――――――――――――――


―――――見知らぬ顔を見たと思えば!旅人さんじゃないか!ようこそ旅人さん、ここはユメハツカの町だよ!

空もだいぶ夕暮れ模様、ハロルドは無事に蜃気楼の町“ユメハツカ”へと辿り着いた。

ユメハツカ・・・それは別名として蜃気楼の町と噂されている謎多き町の名である。その町がなぜ蜃気楼の町として有名なのかを簡単に説明すれば、そもそもこの町は地図に書かれていないのだ。その町に滞在していたという旅人の証言もあれば、付近を通ったが何もなかったという商人の証言もある。

まるで蜃気楼のように在ったり無かったり・・・しかし、運よくその町にたどり着くことが出来たのならば、その町は魔王の城の直近にある“最後の町”として拠点にできるだろうね・・・と酒場の女将が教えてくれたのだ。

もう今日は夕暮れ時、物資の補給は明日にするとして、ひとまず宿を取ろう・・・ハロルドは町の入り口で出会った町人に宿屋の場所を訪ね、案内された先・・・この町で唯一の宿屋へと歩を進める。

程なくして目に見えてきたその宿屋は、町の表通りから少し外れた、小さな石畳の路地の奥にひっそりと佇んでいた。決して大きくはないが、どっしりとした木造二階建ての建物で、屋根は使い込まれた濃い藍色の瓦で覆われている。所々苔むしているのが、この場所でどれほどの時が流れてきたかを物語っていた。

宿屋の扉を開き、カランコロンと来客者を知らせるベルが鳴り響く。さほどの間もなく宿のフロント奥から現れた・・・1人の女性から発せられた定型文ともいえる言の葉が・・・勇者ハロルドの堕落の始まりだった。

「いらっしゃいませ、旅のお方・・・ここは旅の宿屋です」

鼓膜を揺らしたのは女性にしては低めの声質ながら、それでいてこもらずに透き通るような響き・・・思わずうっとりと聞き惚れてしまい、来店者に向けての決まり文句も右から左にスルリと吹き抜けてしまう。

そして真っ先に目を惹かれたのは身にまとっている水色のローブの胸元・・・ついつい不躾な視線で眺めてしまうのは男の性・・・まさしく豊満な果実と評するにふさわしい、巨大な存在感を放つ胸元。しかも上半分が大きく開け広げられているから上半球の谷間の深さたるや、間に挟めば確実に手の平いっぱい余裕で包み込むことが出来るほどの、ズクンと欲望を促すかのような魅惑の谷間が広がっていた。

どこを見ているのですか?と尋ねるかのような視線を感じ、慌てて見上げた先・・・ミステリアスで儚げな雰囲気をまとい、ふわりと滑らかに揺れ動くボブカットの銀髪が何とも彼女に似合っていて、目と目が合った瞬間に深みのある茶色・・・いや、琥珀色の瞳から目を離せなくなってしまう。

極めつけに薄く差された紅の唇がもう・・・直視できない程に艶やか。たかが唇一つで初心過ぎる反応をしてしまうのは彼女の魔性とも言っていい美しさがなせる業なのだろうか。

ハッキリ言って絶世の美女。自分に勇者としての責務が無ければ、二の句は彼女に対する口説き文句になりかねなかった・・・一目惚れといってもなんら差支えがない程に、まだ名も知らぬ彼女に魅了されてしまっていた。

「改めまして、旅人の宿へようこそ・・・1晩夕食付きで32ゴールドです」
「は・・・?32ゴールド・・・だと?」
「はい、1晩夕食付きで32ゴールドです」

思わず聞き返した32ゴールドという値段。それはあまりにも安すぎる値段だったからだ。参考までに比較するが、子供向けのジュース1本50ゴールドあたりが相場であろう・・・宿屋の値段にしてはあまりに
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