キャラバン隊の護衛の仕事を終えたカークスとリリィは息をつく間もなく新たな依頼を受け、その依頼先である山間の上にそびえるグラン・リンバス王国へと入国していた。と言ってもたどり着いたのは半日以上馬車に揺られた夕方過ぎ、入国審査も込みで言えばすっかり日も暮れた後の事だった。
「あぁ・・・流石に一日中馬車に揺られて身体もあちこちバキバキだし入国審査の列も長いし・・・流石にくたびれたなぁ・・・」
「ほんとお疲れ様カークス、今夜は私がマッサージしてあげるからもう少しだけ頑張ろ!宿に荷物を置いて、晩御飯食べなきゃ!」
街灯が闇を照らすグラン・リンバスの街並みは反魔物領を謳っている割には街行く魔物娘が数多く、連れ合いの伴侶と堂々と腕を組んで歩いており、路地の隅では熱烈な口づけまでしている者達までいる。
「ねぇカークス、ここってホントに反魔物領なのかな?」
「主神教会も堂々とあるのに・・・新魔物領に変わった直後ですと言われたほうがまだ納得できる感じだな」
道行く人々は魔と共存し、互いに支え合い、認め合い、そして愛し合っているようにしか見えないこの国でのカークスの仕事は「王国騎士団の特別顧問」というもの。着任予定は明日の昼になっている。
詳細は現地着任時に説明があるとしか聞かされてはいないものの一介の傭兵でしかないカークスに白羽の矢が立ったのにはそれなりの訳があった。
――――――――
時はさかのぼること数日前・・・ここは城塞都市フォートベルタ、カークスが所属している傭兵団の拠点となる都市で親魔物領である。
キャラバン隊の護衛任務を終えたカークスは所属する傭兵団の詰所へと報告の為に帰還していた。
「カークス・オルトランド、ただいま戻りました!」
「おう、ご苦労だったカークス・・・キナ臭い仕事を見事にやり遂げてくれたらしいな・・・とにかくご苦労さんだった」
相変わらず強面な団長は頬に残る剣の切り傷に威厳のある髭、隣に控えるのはキキーモラの秘書で団長の奥方だ。
「報告書は読ませてもらった。何度も言うが何やらキナ臭い仕事だったみてぇだな、ったく俺もヤキがまわったな・・・この件の裏まで見えてなかったみてぇだ」
「いえ、何とか無事に大きな被害もなく仕事は終えることが出来ました」
基本的に傭兵の仕事は襲撃など戦闘の発生した回数だけ上乗せ報酬が発生する。今回の仕事は結構な数の上乗せが見込めるから団長としては嬉しい知らせのはずなのだが、どうも苦い顔をしているのだ。
「団長、何かあったんですか?」
「あぁ、この1件はどうも終わりじゃない・・・お前を易々と離す気は無いらしい」
そう言って団長は1枚の書状をカークスへ手渡してきた。宛先はグラン・リンバス王国・・・件名はカークス・オルトランドへの王国騎士団への特別出向願いと書かれている。
グラン・リンバス王国と言えば先のキャラバン隊の最終目的地であり、カークス指名であることに加え、一介の傭兵が後ろ盾もなく王国騎士団への特別出向・・・偶然ではない上にあからさまな裏がある案件だ。
「どうも白騎士カークスとしての名は王国騎士団の耳元まで轟いてるらしい、こっちの実入りは多いくらいのイイ話ではあるんだが・・・」
団長が悩むのは王国騎士団への出向ということ自体は傭兵にとって栄えある栄転の1つであることなのだが・・・なんと書状の中に暗号が仕込まれていて、なんと王国の危機だからどうしてもこの依頼を受けて欲しいという王国騎士団の参謀直筆のものであった事だった。
「この参謀は俺の昔からの親友でな・・・危険は承知の上だが力になってやってくれないか?」
「了解です団長、この仕事引き受けましょう」
こうしてカークスは昔から世話になっている団長の頼みに対し、二つ返事で肯定の意を返したのだった。
――――――――
「カークス・オルトランドさんね、確かに3日分の代金を頂きました・・・カギはコレ・・・出かける際はこっちまで預けてから・・・」
カークスとリリィは手頃な宿を見つけ、首尾よく一人部屋を取ることができた。バキバキの身体を引きずるように部屋にたどり着くとフカフカそうなベッドがカークスを狂おしく魅了してくるが・・・
「もうちょっと!晩御飯食べなきゃ!」
「君がいなければベッドの誘惑に勝てなかったよ・・・ありがとうリリィ」
着替えの入ったカバンを置いて、傍にリリィをきれいに並べるように外し置く。その身で浴びる久しぶりの空気は思った以上に冷えるんだなという印象だった。早速荷物から防寒着を引っ張り出して身に纏う。
「ふう、さすが山間の国だな・・・夜は凄く冷える・・・奥方の言う通り温かい恰好を用意しておいてよかった・・・」
「私を身に着けている間は例え吹き荒れる吹雪の中でも燃え盛る業火の中でもへっちゃ
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