―――――シャランッ・・・シャランッ・・・
人里と人里の間の山道に鈴の音が響き渡る。それはキャラバン本隊の鳴らす鈴の音だ。
「ねぇねぇカークス、わざわざ鈴の音を響かせると野盗なんかに私達の場所を知らせているようなものじゃないの?止めさせた方がいいように思えるけれど・・・」
純白の鎧を身に纏うカークス・オルトランドは小声でリビング・アーマーたる伴侶のリリィ・オルトランドに話しかけられる。
純白の鎧の中は外見からは想像もつかないが大きな寝袋のようになっており、それでいてカークスの動きにピッタリとフィットして動かせるという何とも都合の良い代物だ。
その広い内部は夜の時間、こっそりと2人がセックスするのに重宝しているが、日中歩く時は流石に邪魔なのでリリィはエネルギー体ではなく鎧として今は引っ込んでいるが会話程度は造作もないとの事だ。
「まぁ確かに一理あるが、悪いことばかりじゃないって事と昔からの習慣というもの、あとはジンクスって奴もあるから鈴は鳴らしているのさ」
カークスは語り始める・・・魔除け、獣避けなど古来より悪しきものを祓うのは清浄なる音だと信じられてきた。
旅をする者たちは皆一様にランタンと鈴を取り付けた杖を突きながら道を歩く。何時しか鈴の音で自らの身分を示すようにもなり、一際高い音で鳴る鈴を使うのは商人だと決まっていた。
諸説ありながら、遠くまで響く高い音で鳴る鈴の音に導かれるように旅の者が駆け込みで商人から買い物をしたのが切っ掛けだったとか・・・何時しかそれは商売繁盛の祈願となり、旅をする商人達は今も鈴を鳴らし続けているという訳だ。
「なるほど・・・あ、だから商人達だけを狙う野盗の事を鈴玉狩りって呼ぶんだね!」
「その通り、流石リリィだ」
「えっへん!私ってば天才かも!?」
リリィの言う通りその高い音の鈴は客だけでなく悪しきもの・・・野盗も誘き寄せることにはなる。
商人達は売り物になる価値ある物や元手となる沢山のお金を持って旅をするからタダの旅人を襲うよりも実入りが多くなるのは明確だ。だから商人達は傭兵を雇う、どうしても鈴玉狩りは避けられないからだ。
「なぁなぁカークス、それにしても最近鈴玉狩りの連中の数が多すぎやしないか?」
「あぁ、俺もそう思ってた所だ・・・一言でいえば何から何まで普通じゃないことが多すぎる」
「ああ、どういう訳か分からねぇが奴ら装備も一丁前だし数も多い・・・挙句の果てには勝機がなくなったと見えるや一人残らず逃げて見せるんだから捕虜もとれやしない・・・ほんと、ただの鈴玉狩りじゃねえってことは確かだな」
同じ傭兵仲間から愚痴のように話しかけられる。それもそのはず今日の朝出発直後に1度、昼休憩前に1度と今日だけで2度もこのキャラバン隊は鈴玉狩りに襲撃されているのだ。
野盗というものは忌み嫌われる存在、例え1度でも手配書などが出回れば今後一生マトモに町で買い物なども出来ないはみ出し者達の集まりだ。
だから襲う者たち一人一人の装備は折れた剣に鋭く削った木の槍や刃こぼれした鉈、有り合わせの木の板をくっつけた盾など武器と呼ぶのも悲しい程に粗雑な事が多い。
それなのにこのキャラバン隊を襲う鈴玉狩り達の装備は刻印こそ削り取られていたが何処かの王国の兵士達に支給されるような物ばかりだったのだ。
それはカークスにも気が付いている事だったが、どうもキナ臭いのはそれだけでは無かった。
鈴玉狩りの連中の狙いがお金を載せた馬車ではなく、商品を乗せた・・・それも武具を乗せた馬車だと聞かされているが、とにかくその馬車を最優先で狙おうとしてくるのだ。
普通に考えても例え価値ある武具達を首尾よく奪い取れたとしてもそれだけでは意味が無い。街で売り払うなりして換金しなければならない手間を・・・ましてや盗品を売りさばく苦労を考えれば最初からお金の入った馬車を狙わない理由が分からない。
全く一体あの馬車はどんな煌びやかな武具かいわく付きの何かが入っているのやら・・・カークスは少しだけ溜め息をついた。
「カークス、敵が来るよ」
―――――パンッパンッパンッ
リリィがそう告げた瞬間に赤、赤、赤の照明弾が空に打ち上げられた。それは敵襲を示す色、それも最大級の警戒を促す3色とも赤の知らせにカークス達護衛の傭兵たちは一気に慌ただしくなる。
後方からは青、青、青の信号弾・・・後方からの敵は確認されずの合図だ。
「カークス!手筈通りだ!お姫様を頼む!ほかの野郎共は前に出るぞ!ヤツら火矢だって持ち出して来かねない!急げ!」
カークスと直援担当の戦力を残し、他の仲間たちはキャラバン隊の前方へと駆け出してゆく。
お姫様を頼む、それは最重要防衛対象に専念しろとの合図だ。
カークスの無敵の強さが敵にも知れ渡
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