そのさんじゅう

〜〜〜もはや必要があるとは思えない人物紹介〜〜〜
堕落の乙女達・デルエラ・あなた・その他の人物=(内面が)まるで成長していない…。
物語はかれこれ紆余曲折の果てに三十話に突入するというのに。
〜〜〜〜〜〜


俺は今、つかの間の平穏に浸っている――といいたいが
残念な事にそうでもなかったりする。俺が寝かせておいた北氷海ヨーグルトを
三分の一ほど食った奴がいるのだ。こっそり食ってごまかせる量ではない。
つまり犯人は隠蔽する気が全くない居直り泥棒か
無事にごまかせると思っている底抜け怪盗のどちらかだ。
主な容疑者は七名。デルエラと俺に同伴していたマリナと今宵以外の嫁達である。
まず、ごまかしの杜撰さからしてミミルはありえない。サーシャ姉と
ロリーサ、ロリシャも性格的にやりそうにない。やったとしても自己嫌悪にさいなまれ
申し訳なさそうに自首するだろう。そして教官はヨーグルトを好まない。
悩む間もなく犯人は二名に絞られた。狼と触手のどちらかだ。
共犯という可能性もないことはないが慎重なフランツィスカ様が
思ってることがすぐ顔に出るプリメーラと組むとは思えない。
しかし、フランツィスカ様の単独犯だとしたら
慎重なわりにはちょっと食いすぎではあるが、貴族特有の大雑把もとい大らかさが
『このくらいの減りなら大丈夫』と太鼓判を押したと思えば一応つじつまは合う。
まあ一番怪しいのはプリメーラなのだが。

「…だが、解せんな」

彼女らはそこまで食い意地が張っていたか?
何もこっそり食わずとも、俺が帰ってくるまで待って、それから
承諾を得て堂々と食べればいいだけの話なのだ。
魔物娘にとっての最大の糧である『夫の精』を待ちわびることができて、精の含まれていない
ただの発酵食品を我慢できないというのは不可解だ。
首をひねりながら、俺は自分と嫁達専用の調理室へと向かった。
「ん?」
中から、知らない気配がする。
デルエラやその姉妹達の魔力に酷似しているそれが調理室の扉越しにも感じられる。
「またリリムか」
この展開からいって今回の犯人は扉の向こうにいる
未知の魔界皇女なのだろう。できれば温厚なタイプであってほしいものだ。
凶悪なのはデルエラやザネットで充分すぎる。
「…………南無三」
今宵が切羽詰ったときに言う呟きを真似しながら俺は扉を開けた。


「……………………」
「……………………」


そうきたか。
腕力バカのゴリリムの次は、食欲バカのロリリムとは。
カチューシャっぽい可愛らしい金の冠を頭に乗せ、色彩豊かというか
配色に統一性のないカオスなマントを羽織り、衣服やブーツや尻尾にハートマークをあしらった
アクセサリーを見せびらかすように数多く装着している存在、それが目の前にいた。
無垢という言葉がふさわしそうな顔は、ポカーンと放心している。
たぶん今の俺の顔もそんな状態なのではないか。
「…………はっ!
た、食べてないですよ!?今回はまだ未遂です!」
先に我に帰ったのはロリリムだった。
「今回は、ってことはそれ以前もお前の仕業のようだな」
「うっ、誘導尋問は卑怯です!」
自爆の間違いじゃないのか。
「…詳しい話を聞かせてもらおうか」
単独犯かどうかまだ決めるには早い。他にも好色ネズミがいるかもしれないからな。
「あのですね、私はミルクやヨーグルトやバターやチーズが大好きなのです」
ふむふむ、乳製品全般が好物ということか。
「デルエラに久しぶりに会いにやって来たのですが、いないようなのでフラフラしてたら
ヨーグルトの気配に釣られてここに辿り着いたのです。それで、つい、おいしそうだったので
ペロッといったのです。なかなかの味だったのです。褒めてあげるのです!」
謝罪の言葉がまったく出てこない。
この幼女淫魔に反省という概念はないようだ。カチンときた。
「とりあえずあんたの両親にこの件について報告するから」
「それは勘弁なのですーーーーーー!!!!」
どれほど親が恐ろしいのか知らんが土下座してタレコミ中止を懇願してきた。
「お父様はちょろいのですがお母様は洒落にならないのですーー!!」
魔王が伴侶に選んだほどの文武に優れた勇者をちょろいとか酷いな。
「それもこれも私が来てあげたのに遠出なんかしてるデルエラが悪いのです!
わかってほしいのです!許すことが大事なのです!」
「姉を呼び捨てにして罪のなすりつけとか極悪だなオイ」
「誰が姉ですか?」
誰って……この流れならデルエラ一択だろ。何を言っているんだお前は。
「なにか誤解してるようですが、私はリリム姉妹の三女にして、不思議の国を統べる
偉大な『ハートの女王』なのですよ?」
「冗談は顔だけにしろ」
俺は即座にカミソリのようなツッコミを入れた。
もし本当ならあのデルエラよりも年長ということになる。お前のよう
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