『魔界国家レスカティエにて内紛勃発』
『皇女派と君主派による権力闘争はついに武力による激突へ』
「…………………………ぬぬぬぬぬ」
「おにーちゃん、大丈夫ー?」「おててがプルプルしてるよー?」
「二人とも、そっとしておいてあげなさい」
サーシャ姉の優しさが心にしみる。
「いえっさーです!」「そっとしますー!」
手刀をこめかみあたりにビシッと当てて、ロリロリが満足げに直立不動のポーズをとった。
「……あ、あの、特に危険視もされない傀儡女王で、申し訳ありません」
いやあんたは悪くない。
……俺は絶望的な内容の文字列が書かれた文書を食い入るように読んでいた。
この文書は主に、魔界と化した地域や親魔物国家に流れたものだが、
おそらく、教団の力が強い地域や反魔物国家ではさらにどぎつく脚色された内容が
広まっていることだろう。口コミも含めればどこまで過剰に脚色されるか想像もつかない。
動揺と憤慨で手が震えていささか読みづらいが、それどころではない。
事前に決めてあった三対三の勝ち抜きルールそっちのけで俺と魔界の第二十二皇女が
ルール無用の時間無制限一本勝負をしたのは覆しようのない事実だ。
で、その結果、俺が脳筋リリムを下して、経緯はどうあれ勝負は勝負ということで
過激派が妥協して大人しくなる事になったのも間違いない話だ。
だから内紛ではない。そもそも俺は権力に興味がない。
しかし、世間の目からしてみれば、まごう事なき内紛にしか見えないだろう。
歴史的には非の打ち所のない誤解だが社会的には真実となっている。
「クーデター成功おめでとうだね」
他人事だと思って言ってくれるじゃないかマリナさん。
嫁じゃなかったらバリスタで撃つところだ。
「そ、そんな厳しい目で見ないで…………し、子宮がキュンキュンしちゃうよ」
「うわぁ、真性のドMや。これは重症やわ」
呆れる今宵のぼやきを聞いて、思わず、この中に誰かお医者様はいませんかと
言いたくなったがやめておいた。
魔物への一方的で独善的な憎悪を絶えずつのらせている教団から
このレスカティエへ吹きつける風当たりは熱波と化して日々強さを増している。
各地に潜り込ませたスパイ達から舞い込んで来る報告は
どれも苦々しくて糖分が欲しくなってくることうけあいだ。
最近では、いかなる議題の場でも
締めの言葉は「ともあれレスカティエの忌々しい魔物どもは必ず滅ぼすべきである」だというから
どれだけ我々が恨まれているのか想像もつかない。
その『我々』のうち、俺が占める割合がどのくらいなのか……
……考えるだけで寝込みたくなってしまう。
教団のレスカティエ憎悪派を100人の村だとするなら50人が俺を恨んでいて
30人がデルエラを恨んで残りが俺とデルエラの双方を恨んでいると思えばわかりやすい。
うそ、大げさ、まぎらわしいの三拍子そろった今回の騒動を聞いて
今頃は「つぶしあえー」と喝采しているだろう。
敵対勢力の内輪もめほどありがたいものはないからな。
しかし現実は、強硬で迅速な侵攻から真綿で首を絞める侵攻に変わっただけであって
適切でかつ柔軟な対応策を取らねば奴らに明るい未来はない。
レスカティエでの敗北を糧にせず、単なる汚点としている限りなかなか無理だろうが……。
一方、魔界や親魔物国家の住人が俺へ向けている印象は多様だ。
理由は単純明快。堕ちた嫁達がノリノリで俺を魔の領域へ引きずり込んだ事実を隠蔽するため
『勇者喰い』などという架空の魔物を教団がでっちあげたためである。
そのため、下級兵士から君主にのしあがった俺と
古代の強大な魔物である俺という、矛盾する二つのイメージが広まってしまい、
遠方の地域では真偽について議論や検証まで行われ、それに触発されたらしい物書きが
ついに小説まで出してしまった。
ニコニコしながら今マリナが抱きしめているのがそれだ。
『折れた聖剣』という不吉なタイトルのこの一冊、若い魔物娘の間では
超がつくほどの大人気小説なのだとか。
「読んでみる?」
あまり乗り気ではないが…………断ってスネられても面倒くさい。
適当に目を通してみるとしよう。
〜〜〜〜〜〜
なになに……主人公である『エルト』はリュスカティア教国の若き騎士であり
勇者エルマリアの幼馴染でもあった……
……………………しょっぱなから俺の立場が多めに盛られている。
まあ、これはあくまで実録風ラブロマンス小説であり
一人身の魔物にとっては夜のおかずでもあるので、主人公をいい位置からスタートさせるのは
仕方ないことだろう。むしろこの程度の盛り方ですんでよかった。
「で、主人公はエルマリアを支えようと健闘するんだけど、それをよしとしない
上層部のゴミみたいな連中や、エルマリアに横恋慕してるつまらない馬の骨たちが
汚らしい手を駆使
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