そのにじゅうさん

サーシャ姉のサポートもデルエラ達の食べ残しの始末も
無事に終わり、俺は再びレスカティエの我が家へ戻っていた。
民の財貨を容赦なく吸い上げた象徴そのものだったこの煌びやかな王城も、住み始めた頃は
無駄に広すぎて居心地がなんとなく悪かったが、今ではもうすっかり慣れてしまった。
ときたま、事情を知らない初見のインキュバスや魔物娘が
うっかり女王の触手に引っかかり精や愛液を搾られて粘液まみれになるのもご愛嬌だ。
(元はメイドや貴族の娘だったローパー達には日課である)
根性に自信のある連中は、所用のついでに俺のいる王座の間まで
たどりつけるかどうかチャレンジしてるらしいが、これまで踏破した者はいない。
ほとんどの奴が廊下で自慰にふけったり仲間と絡みあったりを
体力を使い果たしてぐったりするまでやるだけだ。異性同士の絡みだと長続きするが。
門をくぐった時はまだそれほどでもないらしいのだが、城内に入ると
一転して空気が粘着質な雰囲気をまとい、身体がほてってくる。
奥へと進む一歩ごとに快楽への渇望が抑えきれなくなり、股間を押さえながら
気力を振り絞って足を動かす。そして、耐え切ったほんの数名が、頭がとろけながらも
目的地である王座の間をどうにか目前にしたというのだが、閉ざされた扉の隙間から漏れ出す
段違いの強烈な魔力に蝕まれバタンキュー。
その後は触手どもが一しきり餌食にしてから丁重に運んで庭にでも放置となる。
ただ、肝試しというか我慢比べというか、そういうことを
面白半分でやって『やっぱ君主さまパネエ』とか吹聴するのはやめてほしい。やめろ。


――という悩みが軽く消し飛ぶ事態に遭遇している。


まずは、剣呑な雰囲気の中、希少な名酒のボトルや
みずみずしい極彩色のフルーツが山盛りにされた大皿などが用意された
年代物のテーブルを囲む面子を紹介しよう。
テーブルを挟んで俺の対面に座っているのが、ヘリィこと
ヘリオリスティ(第三十八皇女)とアルハゼッタ(第一皇女)で、右側が
デルエラ(第四皇女)とザネット(第二十二皇女)、そして
左側にフォリエ(第六十三皇女)とヴィネトシーア(第十四皇女)というポジションとなる。
わかりやすくいうと、右が過激派で左が穏健派で向かいが中立で俺が傍観だ。
……そう、傍観のはずなのだが……なぜか俺の前にだけ
木製の小槌が置かれてある。議長役でもやれというのだろうか。

「デルエラ姉様は時勢というものをいささか無視しすぎではないかしら?」
「あら、フォリエ、それは慎重すぎるのではなくて?
来るかどうかもわからない、あやふやなタイミングをダラダラと待ちかねていたら
お母様の悲願達成など、夢のまた夢よ?」
「だからといって大爆発するのも困りものだが」
「ザネット、貴女どちらの味方なの?」
「味方も何も、私とあなたとでは結論こそ同じだが過程が違う。
いたずらに人間を刺激するような侵攻は本意ではない」
「刺激しない侵攻なんてありますの?」
「できるだけ反発を抑える努力をするということだよ、フォリエ。お前もその点では
私と同意見なのではなかったか?」
「それはそうですけど、結局はザネット姉様も最後は力押しではないですか」
「耳が痛いな」
「痛いわね」
「あのねぇ、デルエラお姉様ぁ、フォリエは別に慎重ではないわよぉ。
天空よりも高すぎる理想の彼氏を求めて、無駄にさまよってるだけだものぉ」
「ヴィネ姉様、それ、もしかしてフォローのつもり?」
「当たり前でしょ。ヘリィったら、おかしなことを聞くのねぇ、ふふっ」
「斬新なフォローね」
「えへへ、お姉様に褒められちゃったわぁ」
「おまちになって!無駄ってどういうことですの!?」
「骨折り損のくたびれ儲けということだな」
「…ザネット姉様、もう少し言葉をやんわりワーシープの毛で包んだほうが…」
「んー、この魔界苺おいしいわねー」

長女だけ実にマイペースだ。話をまとめる気がこれっぽっちもない。
ふと前方を見るとヘリィがなんともいえない眼差しをこちらに向けている。
誰が木槌を置いたか判明した。
しかし、期待に添えなくて悪いが、これは俺には収拾つけるの無理だ。
お前らの親でも引っ張ってくるべきだろう。
「…ここは、いまや時の人となった君主様の意見でも拝聴したいものだな」
白髪をショートカットにしたリリムが俺を突っついてきた。うぜえ。
「ないです」
「遠慮しなくてもいい。歯に衣着せない率直な意見を頼む」
「とりあえずお前とデルエラは自重しろ。何を、とかじゃなく、存在そのものを自重しろ。
具体的にはこの世の終わりがくる時まで地の底に永遠に埋まっていてくれ」
そこまで言って俺は魔力塊でスコップを二人分作って差し出した。


「貴様……口の利き方がなってないようだな…」
「ハッ、なってなかったらどうだっ
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