そのにじゅう

魔界国家レスカティエの最高権力者の一人にして、主な仕事が
嫁達とのセックス三昧という立場にいる俺。
魔物に対して好意的な考えを持つ男なら「こんな生活してたら馬鹿になっちゃうよ」と
嬉しい悲鳴をあげるのだろうが、教団に最優先で命を狙われるという
嫌すぎる事実に仰け反り言葉にならない絶望の呻きが喉から出てくるのは確実である。

何を言いたいのかというと、平和が一番ということだ。
つまり、女性のピンチをどこからともなく嗅ぎつけては
性的すぎる解決策を一方的に押し付ける魔界仲人ことデルエラの暴走を
あの手この手で止めなければならない。レスカティエの場合は、本来ならば魔物の誘惑に対し
もっとも抵抗すべき勇者達が揃いも揃って現状不満と欲求不満を持ち合わせていたせいで
むしろ率先して堕ちていったという稀なケースであり、どのみち結果は同じとはいえ
普通なら騒動が終結する前に血の雨が降るのが常である。
男を捕らえてその場でヤってた魔物を背中からバッサリという話も珍しくないのだ。

ここまではよろしいか?

では、どうやって止めるかだが、表立って争えない状況なので
原則として消極的な『待ち』の姿勢を取り、いい頃合いを見計らって
アキレス腱となる要所に横槍を入れて流れをグダグダにするというのが基本だ。
そうなると、情報戦で優位に立たねばならない。デルエラや教団に先んじて
最新のネタを掴んでおけば今後の予測が容易になり、先手を打つのも後の先を取るのも
ある程度は自在となる。まだ知られていないことを既に知っているというのは
地域や時代を問わず強力なアドバンテージなのだ。
石の武器しか知らない民は鉄の武器を知る民に破れ、弓矢を知らない軍は
ただの動く的の集まりになる。そのような悲惨な実例が歴史を紐解けば
数多く見つかることからもわかるように、知識は目に見えぬ強大なパワーといえよう。
知識を正しく用いる知恵があれば、の話だが。


………………


「――だからスパイが必要なのだよ。わかるだろ?」
「へえ」
「そうですか」
俺の力説を軽く流すミリュスとウィット。
言わなくても顔を見ればわかる。『また始まったか』と言いたいのだろう。
しかし俺にとってこれは切実な問題である。
他にやることがなくて手持ち無沙汰だから暇つぶしもかねて
本腰を入れているのは否定しないが、とはいえサラッと流せるような事でもない。
おせっかいリリムの放つエロ火種が俺やマリナ達にまで飛び火する前に
手早く消化するなり事前に水をまくなりしておきたいのだ。
「レスカティエの平穏のために我々が一肌脱ぐのは当然じゃないか」
「あのですね、なし崩しに一蓮托生にしようとするの
やめてくれませんか。見え見えですよ」
「そこは目をつぶってもらいたい」
「ハハッワロス」
などと言っているがウィットの目は笑っていない。
過激派の出足をすっ転ばせるためにロープを張っておくような真似はできないと
その目が言っている。
「ウィットさんはともかく、僕はもう面が割れているんで
スパイとか不可能ですよ」
「教団の連中はお前がこちらに寝返ったことを確信してないはずだが」
「確信はしてなくても怪しんではいるでしょ。
兄さん……まあ今は姉さんですけど、僕が勝手に連れてきちゃったわけだし。
その点、ウィットさんは知名度ないですから大丈夫だと思います」
年少ショタが畳み掛けるように年長ショタにジョーカーを引かせようとする。
「いやいやお嬢様たちのお世話があるんで」
「お暇をもらえばいいじゃないですか」
「そうは言うけど、ミリュス君だってそこまで知名度があるわけじゃないし、
第一、この国にいる分には顔が知られていても関係ないんだから
デルエラ様のそばにいて何かあれば逐一報告するとかできるでしょ」
今度は向こうにジョーカーが移った。ひどいババ抜きだなこれ。
「あははは、麗しいなすりつけ合いだね〜〜」
楽しそうだなミミル。
「笑い事じゃないですよ。ミミルさんはいいんですか?」
「別に〜〜、こんなの昔から慣れっこだし〜〜〜。
もっとえげつない大人同士の会話とか聞き飽きてるもん〜〜〜」
「そ、そうですか」
貫禄の違いにミリュスが動揺している。
そう、こう見えてミミルは勇者をやっていた頃、金と権威にまみれた
無能な連中が跳梁跋扈する生臭いレスカティエの裏側をさんざん見ているのだ。
俺がそれらについての愚痴を聞かされたことも一度や二度ではない。
「…あなたにそんな嫌な思いをさせていたことを、わたくしは
王族の代表として謝罪しなければなりませんね」
先程まで黙って様子を見ていたフランツィスカ様が申し訳なさそうに言った。
「い〜よい〜よ、そんな辛気臭いことしなくても。
もう過ぎたことだし、フランツィスカ様が悪いわけじゃないからね〜〜」
まあ寝たき
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