これまでのあらすじ
〜〜デルエラの放った気円斬を受けの美学で喰らったら
上下真っ二つにされたが気合と魔力とご飯粒でどうにかくっつけた〜〜
――という、嫁達が聞いたら即座に反乱を起こしそうな確率が
150パーセントに達しかねない経緯は俺達三人の胸に封印することにした。
(割合はデルエラに刃を向ける確率が100で残り50が魔王へのとばっちり)
元はといえば俺の小さな悪意と大きな茶目っ気が原因なので
そこまでキレないとは思うが、あいつらおかしいから。
特にマリナがおかしい。
どのくらいおかしいかというと俺のパンツを自分の顔におしつけて
全力で臭いをかいではオレンジジュースを飲んでいたことがあったというくらい
ヤバイ方向にぶっ飛んでおかしい。
なお、その光景を偶然にも目撃したプリメーラが俺のところに来て
真顔で告げた第一声が「良家のお嬢様って男の下着をつまみにするの?」だった。
「どうですか、体の具合は」
レスカティエにはすぐ戻らず、俺の胴が無事にくっつくまで
腰をすえることにした温泉街の豪華な一部屋で、俺はミリュスに
かいがいしく看護してもらっていた。なぜこいつがナース姿なのかは追求しないでおこう。
「酒漏れもしなくなったし、地に足が着いてない感覚がなくなったから
ほぼ完治したといってもいいだろうな」
「それでも病み上がりなんですから気をつけて下さいね」
「むしろあっちが深刻だろ」
俺はどんよりとしたオーラが漂っている一角を指差した。
「…ああ…母様と父様の顔と理想に泥を塗ってしまった……
魔物娘の夫を殺しかけるなんて………やりすぎにも程があるわ……うう…
愛と快楽をもたらすのがリリムである私の使命であり
ライフワークなのに………なんて駄目なリリムなのかしら私は……」
床に文字を描くように尻尾をいじいじ動かしながら
デルエラが部屋の隅っこで体育座りしていた。
「四六時中あんな雰囲気だとこっちまで陰鬱になるわ」
「元気づけたらどうですか?」
何が悲しくて二つにぶった斬られた本人が犯人を元気づけなきゃならんのだ。
「お前がやれよ」
「もうとっくに数回しましたけど効果ゼロでした。あしからず」
本当にしたのか?なんか胡散臭いな。
「…まあいい。あれはこの際ほっといて温泉いこうぜ温泉。
湯に浸かりながら一杯やりたい」
「そうですね。僕らにできることはないみたいですから。
アニーさん、問題はないと思いますけど、念のためデルエラ様の様子を見てて下さい」
「わかったわ」
すっかり従順になった元魔狩人(廃業)を残し、元下級兵士(失業)である俺と
元ショタ勇者(引退)は、疲労や傷によく効くと評判になっている
この宿の自慢に浸かりにいくことにした。
「ううぅ…………このままじゃ姉妹達に投石されちゃうかも……」
魔界の姫(現役)の唸りは止まらない――
………………
それから半日後。
「過去はしょせん過去、過ぎ去った出来事にすぎないのよ。
私はそんな過去の罪もバネにして前に進むわ。それこそが未来に繋がるのだから」
デルエラは立ち直った、というより開き直った。
くそ重苦しい空気が流れてこなくなったのはよかったのだが、あのいつもの
半笑いドヤ顔が復活したのはなんかイラっとくる。
「それで、これからどうするの?
君主様の怪我はほぼ治ったわけだし、レスカティエ教国に戻るんでしょ?
私も……この子の正妻さんに挨拶したいし」
ショタインキュバスの新妻――アニーが物騒なことを口走った。
語尾に強いものがある。これはあれだ、挨拶という名の宣戦布告っぽいな。
「これから大変だぞお前」
俺はミリュスの肩に手を置き、そう言ってやった。
「あなたほど苦労しないと思いますが」
……そうだった、帰ったら精と快楽に飢えた嫁九人に
ごちそうしないとならんのだよな。
「さあボヤボヤしてないで帰国よ帰国!」
装飾過多なリリムがうっとおしいほど元気な声をあげた。
で、急かされてレスカティエに戻ったんだけど、困ったことに
ミリュスがうっかり口を滑らせ、悲劇の俺分離事件がマリナ達にばれた。
…ばれたのだが。
『伴侶を傷つけられるなど魔物娘として絶対に見過ごせないことですが
彼の自業自得でもありますので今回はプラマイゼロで。彼もピンピンしてますし』
そんな冷たい結論になったので、それはあまりにあまりだと思った俺は
禁忌の書物に手を出して嫁達に見せびらかすことにした。
「やだ、そういうの本当に勘弁して、ちょっと!」
マリナが両手を前につきだして顔をそむけ、拒絶の構えを取った。
人間の女性には魅力的な娯楽のひとつである不倫小説なのだが
魔物娘にとってはホラー小説にしか思えないらしい。
(ユニコーンでなければ)ハーレム系なら許容もできるが、男が寝取られる話など
想像するだけで冷や汗
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