たぶん雲の上にいる父さんと母さん、俺は今、教団の大敵という身でありながら
反魔物国家に息を潜めているんだ。なぜこんな事態になったのか
じっくり考えまくったが皆目わからない。
驕り高ぶったリリムに活を入れてやろうと些細な悪戯を仕掛けただけなのに
どこで運命の歯車が狂ったものか、まったく頭が痛いよ。
だが、後悔してもいられない。運命は切り開くものなんだからさ。
「おかわり頼む」
俺はさっきまで麦酒で満杯だったジョッキを空にし、
まだあどけなさの残った顔をした胸のでかいウェイトレスに手渡した。
「はーい」
俺のような若い男が酒場に入り浸っていることが珍しいのか
ウェイトレスは微笑みながらウインクしてカウンターに戻っていった。
一応、幻覚の魔術を用いて顔を変えてるから
正体には気づかれてはいないはずだ。というかバレてたら
とっくの昔にこの酒場は完全武装した兵士に十重二十重に囲まれている。
「……さっさと帰って土下座でもしたほうがいいんじゃないですか?
あの方の怒りも少しは収まってると思いますし。七発くらい殴られそうですが」
「少し程度では怖くて戻れんな」
それに頭に血が上った状態のリリムに七発も殴られたくない。
「だったら最初からあんな非道なイタズラを
やらなきゃよかったんですよ」
「あそこまでやるつもりなどハナからない。ああなったのは偶然の産物だ」
「僕に言い訳されてもねー」
フードをかぶって顔を隠した小柄な影が
肩をすくめると、テーブルの向こう側にちょこんと座った。
俺が出奔してからすぐマリナ達に頼まれて後を追ってきたミリュスである。
「せっかくだし、もっと飲んだくれてたい」
「そんなことしてたら彼女達がしびれを切らしますよ。
この国を潰す原因になったりして、悪評をまた増やしたいんですか?」
「それは嫌だな」
「でしょ?」
「けど今はただ羽を伸ばしたい気分なんだよな」
「言いにくいですけど、それはただの逃避ですから」
言って欲しくないことをはっきり言ったなコイツ。
「じゃあ来週にでも帰るよ」
「明日にしろ」
「まあ、帰途につきながら飲んだくれれば酒を楽しめる時間もそこそこあるだろうから
いいとして、今日はどこに泊まるんだ?」
「とりあえず僕に付いてきて下さい。説明は後ほどしますので」
名残惜しいが、酒場をやむなく出ると、俺はミリュスの案内で
町外れの廃屋へと足を踏み入れた。
「無関心の結界を張ってありますので、よほど大きな騒ぎを起こさない限り
この建物が人目にとまることはありません」
「んぅううぅ、ううぅーーーーー!!」
「それはわかったが……」
「んおおおおぉぉ!おおおおおおぅーーーーーーっ!!
んぐうううううぅぅぅーーーーーーーーー!!」
「ああ、この女性ですか?
この国に入る前から僕らのことをつけ狙ってた魔狩人ですよ」
魔狩人――とは、特定の国家や団体に属するのではなく、驚くことに
単独で魔物と戦ったり、時には反魔物派の連中に金で雇われたりする流れ者の総称である。
パーティを組むのが常識の冒険者とは違い、個人主義で、
己以外は信じないし頼らないという、独立独歩の精神で生きているのだとか。
早い話が腕の立つぼっちだ。
その中には、勇者の才を持つ者もたまにいるとのことだが
こうしてお目にかかるのは初めてである。
「わざとここに引き寄せて結界を張ってから一戦交えたんです。
なかなか強かったですけど、しょせん僕の敵じゃなかったですね」
だから服のあちこちが破れて血が滲んでるのか。
「で、お仕置きとして、ああしてるという訳です」
と言うとミリュスは冷たく笑い、床にべったり張り付いている魔力塊の
手枷足枷で捕らえられ、潰れたカエルのようなポーズでうつぶせになったまま、
床上にある一際でかい魔力塊から生えている無数のイボイボがついた棒状のものを
引っ切り無しにアナルに出し入れされて狂う女を指差した。
その女の叫び声がくぐもっているのは、丸い球のような魔力塊を
口に押し込まれているためらしい。長い黒髪を振り乱し汗だくで悶える
その様は倒錯的なエロスに満ち満ちていて、しかもその臀部には
尻穴のすぼまりを中心にして『快楽のルーン』が刻まれているという徹底ぶりだ。
「処女を破るのはかわいそうだったんで、そっちの穴のほうを
使ってあげることにしたんです。最初は耐えてましたけど、快楽のルーンを
刻んで掘っていたら、すっかりメロメロになっちゃいまして。
まだ心は堕ちてないみたいですけど……」
「それは凄いな」
あれを刻まれてから嬲られたりしたら、いや、刻まれている途中ですら
人間には決して耐えることはできず確実に魔物化するはずだが、さすがは
勇者ということか。たいしたものだ。
「んごおおおおおぉ!おおっごおぉ!おおぅ!
おっ、おうっ…………
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