「旦那さんよ、水くれ水」「こっちも頼む」
手足の生えた球根とか芋とかが口々に水分補給をねだってきた。
先に言っておくがこれは幻覚ではない。夢でもない。あくまで現実だ。
新婚旅行中、ずっとガーデニングをほったらかしにしていたら
こんなやつらが地中から這い出てきたのだ。もう手のつけようが無いので
そのガーデニングは放棄してある。
「ほれ」
俺は水を待ちわびている正体不明のクリーチャーに
じょうろの中身をかけてやった。
シャアアアアアアッ……
「生き返るわー」「ごくらくごくらく」「たまらんぜよ」
どことなくユーモラスでありながらも強烈にグロテスクな何かが、
熱い湯に浸かったおっさんみたいな感想を述べている。
これが最近ではごく当たり前の光景なのだが、マリナ達はいまだに慣れないのか
身を寄せ合ってこちらを遠巻きに見ていた。
『なにこれこわい』
というのが彼女らの総意だ。魔物娘と化していても未知への恐怖はあるらしい。
一匹一匹が成人男子の拳くらいのサイズという微妙な大きさが
さらに不気味さに拍車をかけているようだ。
ちなみに、この光景を俺たちが初めて見たときには
プリメーラとサーシャ姉が腰を抜かしてロリ二人が絶叫した。
(あのデルエラでさえ引きつった悲鳴をあげたのには驚かされた)
「あー、これでゆっくりできる」「んだんだ」
水を充分に吸えたらしく、こいつらは自分達の寝床である
旧ガーデニングのところまで歩いていって、そのまま土をかきわけ潜っていった。
「さて、それじゃ新ガーデニングのほうを手入れするか」
苦行を乗り越えた先にあった桃源郷――医の楽園。
そこで購入した薬剤が無事に効いてまともな作物が育ち始めたことへの
喜びを噛みしめながら、俺はウキウキしてきびすを返した。
「待ってお願いどうか待ってストップストップ」
マリナが俺の前に立ちはだかってきた。
「さっきのあれ……どうにかならないの?」
顔をしかめて、魔界も裸足で逃げ出す謎の立入禁止ゾーンを弱々しく指差す。
「まさか、食いたいのか?」
「死んでもイヤ」
じゃあ何だよ。
「あんな汚物は消毒すべきってことだよ。ねえ、おにいちゃんってばぁ」
毒舌魔女っ子の語尾が伸びてない。本当に嫌なようだ。
「やっても構わんが、下手なことして祟られても知らんぞ」
ぐっ、とミミルが息を呑んだ。
「それはそれで遠慮願いたいですわね……
……どうしましょう」
フランツィスカ様が腕組みしながら触手で頭を抱えて悩みはじめた。
水を欲しがるだけの無害な存在なんだから
そっとしておけばいいのに、わざわざこの世から排除することもなかろう。
「だからといって放置してても不運を呼び寄せそうなんだけど」
心配性な狼さんだな。
「呼んだところでたいした不運じゃあるまい。っていうか
俺を人類の敵にしたお前らのほうがよっぽど俺に不運招来させてる」
「それは私たちの膨大な愛の副作用みたいなものだから多少は仕方ないわよ」
流石にカチンときたので色ボケサキュバスの喉に抜き手かました。
ところで、例のリークの件であるが、嫁達には
『デルエラが弾けそうならヘリィに裏から密かに伝える』としか言ってない。
度合いに個人差こそあるものの、九人全員が
教団に対して嫌悪や侮蔑の感情を持っているので、俺がミニ王子ルートで
そちらにもネタを流すとなれば反対は必至だからだ。
ちんこパワーで無理やり同意させるのは可能だが、仲直りセックスならともかく
圧倒的な快楽の波でねじ伏せ強引に従わせるということは極力したくない。
無論、抜き差しならない事態になれば躊躇なく抜き刺しをやるが。
…我ながら面白いギャグである。
「そういえば、貴方にさんざん弄ばれたあの男の子と、その子の
お兄さん……いや、今はもうお姉さんでしたね。貴方と仲がよいみたいですけど
いつの間にそんな親しくなったのですか?」
「俺のカリスマ」
「何をおっしゃられているのか皆目わかりません」
女王様は相変わらず手厳しいコメントを返してくれますね。
「冗談はともかく、男同士、気が合うんだよ。元男でもそれなりに。
それに向こうは俺になんとなく感謝しているようだし」
これが人徳というものかもしれない。
「人徳だと思ってはるんなら大間違いってやつやで」
今宵も言うようになったな。
尻尾の数に比例してツッコミの頻度も増している。けど基本的には
しっとりふんわりしているので愛くるしい。
「今宵は可愛いなあ」
「なにその受け答えおかしくない!?
私だって可愛いでしょ!?尻尾だってあるんだよ、ほらっ!?」
「おねーちゃんおちついておちついて」「尻尾はたぶんかんけいないよー」
仰天したマリナがテンパりだしてダクプリ幼女二人になだめられている。
とても元勇者とは思えない醜態だ。だいたい尻尾なら九人中七人が生
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