これまでのあらすじ
〜〜羽を伸ばしてショッピングしてたらデルエラの妹に絡まれた〜〜
「こちらへどうぞ〜」
むっちりと肉の詰まった体つきのウェイトレスに案内され、魔王の娘と俺は
防音機能のととのった一室へとたどり着いた。
頭上から生えている耳や、かろうじてスカートからはみ出て
周りに自己主張してる短い尻尾に、豊満な体格。どこからどう見てもオークだ。
「ぶどう酒を頼む」
俺は彼女とテーブルを挟みこむ形で椅子に座り、大好物を頼む。
「私はアイスティーにしようかな」
注文を聞き終えると、ふくよかなウェイトレスは一礼して厨房へと戻っていった。
「こういう場所ってね、いかがわしい行為をするだけじゃなくて、こっそりと
秘密の話し合いをするときに使われたりするのよ。
もしかしたら、お隣さんがすっごい大物だったりするかもね」
などと言ってから
「あ、私達がそうかぁ」
自分の膝を叩いて彼女はケラケラと笑っていた。
……考えが読めない。こういう手合いは対処に困るな。
とはいえ受け身になってばかりもいられないので話を切り出そう。
「さっき、偶然って言ってましたね。てことは、デルエラ…様に頼まれて
俺に会いに来たわけではないようですね」
あんな暴君に様付けしたくないが、一応つけておく。
「あー、別に呼び捨てでもいーよー。普段はそうなんでしょ?
私のことも、ヘリオリスティって呼んで構わないから。なんならヘリィでもいいよ。
へりくだった喋り方されても、肩がこっちゃうしね」
「じゃあヘリィで」
「うん」
いきなり馴れ馴れしくしてみたが、彼女はそれに驚くこともなく
むしろそれが当たり前というように頷いていた。懐が深いのか大ざっぱなのか
そこまで判別はできないが、なんかウマが合いそうだ。
デルエラといいこの女性――ヘリィといい、俺はリリムと相性がいいのかもしれない。
……なんて思ったりしたことをマリナ達に知られたら大変だろうな。
「ごゆっくり〜」
注文の品をテーブルに置くと、間延びした声の魔物娘ウェイトレスは
どこか抜けてるような笑みをこちらに見せ、個室から出て行った。
「…ああいう溢れそうな体つきって、男の股間をビンビン刺激するのよねー」
身もフタも無い露骨な物言いである。
「スレンダーなのもそれはそれでそそるけどな」
「雑食なのね」
男との交わりを主食とする魔物娘らしい例えだな。
「俺は差別が嫌いなんだよ」
俺はニヤリと笑い、グラスの中で揺れる液体の匂いをかいだ。
『薬草臭かったら嫌だな』などと邪推していたが
流石にそれはなかった。どうやらそこまで節操の無いお国柄ではないらしい。
「薬っぽかった?」
同じ事を考えていたらしく、ヘリィが首をかしげながら聞いてきた。
この仕草だけでも、並みの男なら心を引かれるのだろう。
「いや、若草の香りというところかな。
深い味わいのする年代物もいいが、こういった新参も捨てがたい。
…………うん、うまい」
「無類の酒好きなわりにはじっくり味わって飲むんだ」
それも知られているのか。
まいったな、これでは俺のプライバシーはあって無いようなものじゃないか。
「ワインっていうと、この、自慢のおっぱいの谷間にそそいだやつを
彼に飲んでもらったことしかないなぁ。私、お酒ってあんまり好きじゃないのよねー」
ヘリィは、自分の胸元で揺れる二つの大きな膨らみを掴むと
それを左右から圧迫するポーズをとってみせた。
「それがリリム流なのか?」
「最初は人間の女性がやってたことらしいよ?
それが、魔物化した連中やインキュバスから知れ渡ったとかなんとか…」
なるほど、性の貪欲さはともかく、脇道にそれた
マニアックな行為では人間のほうがだいぶ上だということか。
「穏健派が動いている?」
冷たいアイスティーを半分ほどストローで吸うと、ヘリィは
何ともキナ臭そうな本題を切り出してきた。
「そーなのよ。デルエラお姉様はやりすぎなんじゃないかという意見が出てきてね。
当たり前といえば当たり前だけど。元が人間だった連中には
そういう強引さが傲慢に感じるみたいでさー……あまりいい顔されてないのよ。
教団や反魔物国家を刺激しすぎて大陸規模の大戦争にでもなったら
勝敗はどうあれ、それこそ、人間も魔物も甚大な被害を受けちゃうしねー」
「ジパングのように人と魔のゆるやかな融合を目指したい派閥には
あの女が少々うざったくなってきたということか」
とはいえ、魔界の第四皇女に対して直接的な攻撃はやらんだろ。
せいぜい侵略行為への牽制だな。
「で、君はどーするのかな?」
組んだ手の上に顎を置き、ヘリィが抽象的な問いかけをしてきた。
「…質問の意図がわかりかねるんだが」
「お姉様と穏健派、どっちに与するかってことよ。二者のバランスを
一方に傾けるだけの力を持っている、
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