俺が主演と演出と監督を務めた、空中からの
一方的な蹂躙劇(脚本・クイーンローパー)によって
反魔物国家メイデナの騎士団は無残にも敗走していった。あれだけ痛めつけられれば
しばらくは組織だった行動は起こせまい。恐らく、数年は戦力を蓄えつつ
自国の防備に専念するのではないか。
これだけ黒星が続けば、教団や他の反魔物国家も大規模な支援の類はしないだろう。
勝率の低い馬に賭ける指導者などそうそういない。ただでさえ
国家や組織の運営というものは、一種の博打的な要素を含んでいるのだから。
なんにせよ、今回の新婚旅行において懸念すべきポイントは
これにて全て排除したということである。
(俺が撒き散らした使い捨てダークマタ−式魔力塊も、事前の予想通り、
被害を土地にまで及ばせることもなく、なんとか新たな魔界を誕生させずにすんだ)
精神がどん底にまで落ち込んでゾンビのごとき顔つきだったプリメーラも
ようやく本調子となり、どうやら俺達へと追い風が吹いてきたようだ。
…いつ向かい風になるかわかったものではないが。
「いや〜〜長旅だったね〜〜〜〜」
滋養強壮と疲労回復のハーブティーが入ったカップから唇を離し、窓の外を眺めながら
しみじみとミミルが呟いた。
「まだ、片道が終わっただけやないの。
……行きはよいよい、帰りは怖い……ってならなきゃええんやけどねぇ」
おいやめろ今宵。
「…な、なあ、また二日前のときみたいに、濃いセックスしようよ。
たっぷり、精と快楽を与えてくれよぉ…」
「考えておきますから、とりあえず落ち着いていて下さい」
ぐずる教官を適当になだめすかすと、俺はお目当ての品を求め
魔法薬の専門店へと向かうことにした。
レスカティエの親善大使としての役目はマリナかフランツィスカ様がやるだろ。
「護衛はいらないのー?」「一人でやばくないのー?」
「いらんいらん。護衛なんぞ連れていたら逆に注目されてしまう」
俺は心配してくれた二人の頭とお尻を撫でてから、この都市の地図を片手に
広々とした客間から出ていった。
――それから小一時間後。
薬剤に関わる店舗が大小様々にひしめく『医の楽園』の首都でも
品揃えのよさと値段の高さが指折りの店で、俺はまったりと品定めをしていた。
「とりあえず、効果の高いものから買い込んでおこう」
認めたくは無いが俺も一応はレスカティエの権力者のひとりだ。金はそれなりに持ってる。
抗魔力入り肥料というのは、どれもこれも
なかなかに値が張るものばかりだが、財布の中身や立場が下っ端兵士だった頃とは
雲泥の差となっている今ならこれらを大人買いしても余裕で大丈夫だ。
責任や危険がつきまとう立場というのは概ねそれに見合った力が手に入る
ポジションでもある。そんなハイリスクハイリターンは全力で遠慮したかったが
こうなったからにはメリットを最大活用させてもらうしかあるまい。
「お求めの品は以上でっか?」
目の辺りに寝不足じみたクマ模様のついた
ジパング特有の獣人系魔物――刑部狸――が揉み手しながら、にこやかに尋ねてきた。
商売に精を出す珍しいタイプの魔物だというのは、一身上の都合で
ジパングに滞在していた時に知ったが、この大陸にまで進出していたとはな。
「わざわざ長旅までしてきたんだ。買えるだけ買わせてもらうよ」
「さっすが、レスカティエの大物さんは太っ腹ですなぁ」
……なるほど、生粋の商人種族だけある。なかなかの耳の早さだ。
「どのくらい有名なのかな?」
「ここいらでも上質な人相書きが出回ってましたからなぁ。あんさんが
誰にも気づかれないっちゅうのは、それこそ田舎町でも難しいかと思いまっせ」
そういえばそうだったな。改めて自分の現状に頭が重くなる。
「貴重な情報ありがとう」
「いやいやただのサービスでっせ。こんなにたくさん買い込んでくれはるお客さんは
そうそうおらんし。ついでに媚薬もつけときまっか?」
それは遠慮した。
「すっかり有名人だな」
媚薬の代わりにサービスしてもらった手押し車に収穫を乗せて
俺は自分の知名度の高さに辟易していた。
初対面の店主でさえ確信を持って話しかけてくるほどの有様だ。もし素顔を晒したまま
路上を歩いていたら、間違いなく周囲の視線を根こそぎ集めていただろう。
なんらかの余計な騒ぎまで呼び込む可能性すらあった。
魔力塊をマント型からローブ型に変更し、フードで顔を隠していたのは
やはり正解だった。
「…カフェはそれなりにあるみたいだが、酒場の姿は見られんな」
悲しいことに、この国ではアルコールの需要は薄いようだ。
歓楽街はあるようだが国が親魔物よりになってる影響なのか、
現在のレスカティエに数多くある、恋人同士や夫婦で訪れて様々なプレイを楽しむ店や
客が店員をお持ち帰りできる(逆も然り)店がいくつもあり
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録