そのじゅう

鎧の金具が擦れ合う音や力強い軍馬の蹄の音などを聞きながら
俺とモンスター嫁九人は、傍目には侵略にしか見えない新婚旅行を続行していた。

『ここまで来ておいて戻るのももったいない、かといって
旅行を続ければ、もしかすると本格的な戦争が幕を開くかもしれない』

などと、俺は貴重な肥料と危険なトラブルを秤にかけてたというか
単に煮え切らない態度を取っていたら嫁達が満場一致でGOサインを出したため
やむなく当初の目的地へと進んでいるのである。
「…ねえ。なんか…軍勢が増えてない?」
馬車の外に顔を出していたプリメーラが首をかしげた。
「ああ。どうやら夫が欲しい魔物たちが続々加わってきてるそうだぜ。
数日前に捕虜の大盤振る舞いをしたろ?そのことを知って
未婚の連中が寄ってきてるんだとよ」
旅行当初から付き従ってくれていた護衛たちと
今後の打ち合わせをしてきた教官が、プリメーラの疑問に答えてくれた。
さっき、俺も外を見てみたが、確かに軍勢を構成している魔物たちは
俺たちと援軍の合流時よりも数を増していた。
人間のようなもの、小さいもの、獣のようなもの、虫のようなもの、
不定形のもの、死者のようなものといった様々な人外娘が、群れを成して
俺たちの乗っている馬車を何重にも囲んでいた。
「どいつもこいつも現金なもんだ」と教官は言って、馬車の床に
鱗で覆われた長い下半身でとぐろを巻くと、俺の膝に頭を乗せて甘えてきた。
「たまにはこういうのもいいなぁ…………んっふっふ」
頬擦りまでしてくる。珍しいこともあるものだ。
「あらあら、先を越されてしまいましたね」
「うにゅううぅ…」
フランツィスカ様が穏やかな口調で悔しがり、マリナが顔をしかめた。
「ほんならウチはこっちをもらうわ」
もう一方の膝に今宵がしなだれかかってきた。
「ぬうう」
今度は低く呻くマリナだった。


入れ替わり立ち代りで嫁達が俺の膝の領有権を主張したり
時には強引に奪い合ったりするという、なごやかな波乱はあったものの
これといった襲撃も無く旅は続き、やがて夜となった。
「襲われなかったねーー」「ねーー」
ロリ僧侶二人がつまらなそうに呟いた。
偏った倫理観で脳が凝り固まってるとはいえ、騎士団の連中も馬鹿ではない。
これだけの数の魔物の群れにおいそれと仕掛けてくる訳が無い。
しかし、偵察部隊くらいは派遣してくると思われるので、
夜間に活動的になる魔物を率いてプリメーラが嬉々として狩りに出かけていた。


……数時間後。
成果は上々だったらしく、縄で縛られた軽装の男女が俺たちの野営地へと連れられてきた。
これから何をされるのかという不安で、こいつらの心中は
埋め尽くされているだろう。喰われるとでも思っているのかもしれん。
いまだに世間ではそういう認識がごく一般的だしな。
「ようこそ、我々の世界へ」
堕落神の敬虔な使徒モードに入ったサーシャ姉が
怯えるそいつらに近づき、妖しくも優しげな笑みを浮かべ、手を差し伸べた。
――彼女がその場を離れた後、理性をほどよく蕩かされた虜囚たちと
看守たる魔物らによる乱交が始まったのは言うまでもないだろう。
「えっへん!一人残らず捕まえてきたよ!」
ほめてほめて、と言わんばかりにエルフ狼が尻尾を振って
俺のそばへと駆けつけてきたので、褒美に牛の骨でもやってみたら腕を噛まれた。
「ただの軽いジョークなのに」
「ぐがが」
いつまで噛み付いてるつもりなんだよお前。
「狩りをしたんでテンション高くなって野生が刺激されてるみたいね。
目が血走ってるし。魔物としての本能が滾ってるのかな?」
「なるほどな。それでマリナ、こういう場合はどうしたら元に戻るんだ?」
「さあ?」
お手上げのポーズをとるマリナ。
「さあ、って…」
「だってワーウルフの生態なんて知らないもの。魔物学者じゃあるまいし。
時間の経過にまかせるしかないんじゃない?それが嫌なら魔法で沈静させるとか」

「……わうぅ………アタシは駄目なバカ犬ですううぅ…………」
沈静魔法が効きすぎたのか、それとも俺が魔力の加減を
うっかりしくじったのか、プリメーラは馬車内の隅でうずくまってしまった。
「アタシはエルフでもなければ
人間でも魔物でもない、宙ぶらりんな半端者なのよぉ…」
細やかな刺繍の入った絨毯に、指で『の』の字を描きながら
さらに自分の内面へと落ち込んでいっている。
「また魔法でも使うか」
まるで料理下手な輩が適当に味付けを修正するような状況だな。
「おとなしく時間の経過にまかせはったらええんやないですか?
…それに、こないになっとるプリメーラさんも、
これはこれで新鮮で面白い……いや何でもあらへん」
語尾をごにょごにょと濁し、今宵がひどい一面を見せた。
「面白いのは否定できませんけどね」
フランツィスカ様まで乗
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