そのに

ウィルマリナ「…おわかれなんだね」
あなた「らしいね」
ウィルマリナ「辛いって、こんな気持ちなんだね。
もうあなたと会えなくなることが、凄く……………………辛いよ…………」
あなた「……ぼくも」
ウィルマリナ「……………………」
あなた「ぼくも、お父さんたちの再就職について考えると辛いよ」
ウィルマリナ「えっ」
あなた「えっ」

「…なんだか遠い目でボンヤリしてるようだけれど…ねえ、マリナ。
この子、どうしちゃったのかしら?」
「たぶん、現実逃避してるんだと思います。
まだ直ってなかったんですね、この悪癖」
………………………………はっ!?
いかんいかん、つい悲しい思い出に逃げてしまった…何の解決にもならないというのに。
…いや、そういえば人間は瀬戸際に立たされると、過去の記憶を猛スピードで思い出し
その中から役立つものを必死にチョイスしようとすると聞いたが、今のがそれなのか?
そうか、その手があったか。ならば……
「頼みがある」
落ち込んだトーンで、目前にいる四匹の魔物に対して俺は、弱弱しく懇願した。
「俺には、職にあぶれ、しかも体を壊している両親がいるんだ。
今ここで俺がお前たちに頭からバリバリ食われたりしたら、誰がその両親を養う?
だから、頼む、虫のいい話かもしれんが、
知り合いのよしみで、どうか見逃してくれないか…?」
なんとなく、とまどいの気配がしたのが感じられた。イケるか?
「お前の両親なら、お前がガキの頃に死んだと聞いたが」
教官が横槍もとい横ハルバードを入れてきた。
「誰がそんなデタラメを」
「ん〜〜、半年くらい前かな。酒場で酔っぱらいがアタシにポロッと漏らした」
「いやいやいや、そんな誰ともわからない酔っぱらいの戯言なんて、真に受けたらだめですよ」
よし、押し切れる。
「その酔っぱらいはお前だ」
「というか、頭からバリバリは、あまりにも偏見がすぎるわねぇ」
まずい、この場で一番発言力がある者の不興まで買ってしまった。

「…それはさておき、あんた、デルエラとか言ったか。
もう逃げないから開放してくれないか。さすがに口しか動かせないのは煩わしい」
「そんな言葉を信じるとでも思う?」
妖艶な仕草で小首をかしげ、恐るべき魔物は、子供をいさめる様に問いかけてきた。
「不審な動きをしたらまた呪縛したらいい、それで駄目か?」
デルエラは答えず、マリナ達を順番に眺め、
「反対意見もないみたいだし、まあ、大目に見てあげるわ」
よし。

やっと呪縛から解き放たれた俺は大きく伸びをして、固まった体をほぐした。
「聞くまでもないのかもしれないが…王族の方々をどうしたんだ?」
「わかりきってるじゃない」
子供の頃のような無邪気な笑顔でも、再会した後の人形じみた笑みでもなく
淫靡な魔物の笑いを浮かべて、マリナが王族の結末について濁す。
……フランツィスカさまもか………………つくづく無力だなぁ俺は……
まあ、勇者でもなければ、神々の加護も魔法の才もないし、
つーか単なる使用人の家系だしな。そんな者が一国の姫君を守れるわけないか。
「そうか……できることなら、まだ人だったときに、これを渡したかったけどな…」
俺はポケットから、石を削って作られたお守りを出して、マリナたちに見せた。
「なぁにコレ〜〜〜」
子供特有の好奇心を発揮して、すぐさまミミルが質問してきた。
「これは…あっ!」
わざとらしさをできるだけ隠蔽し、石を手から滑らせ、窓際へと転がせた。
「い、いかん」
「あはは、おにいちゃんのマヌケ〜〜〜アホ〜〜〜あはははは〜〜〜〜」
笑われながら、前屈姿勢になり小走りで拾いにいく。
そのまま加速を早めて窓を突き破る!

ガシャアアアアアアアアアン!!

濡れた音や、肉と肉がぶつかり合う音をかきけすように、
その場に場違いな甲高いノイズを鳴り響かせ、俺は庭に転がり出し
賭けに勝ったことを確信しながら立ち上がった。
あとは性交にふける周囲を尻目に町へ逃げ、サーシャ姉たちを連れて…

ぐにゅ

「ぐにゅ?」
柔らかさと弾力を兼ね備えた何かを踏みつける。これはメイドたちにまとわりついていたあの…
「うおおおおお!?」
一瞬の油断。
俺は手足をあの気色悪い触手どもに絡みつかれ、完璧に自由を奪われてしまった。
「あと一歩でしたわね」
これで四度目になるか。またしても聞き覚えのある声が聞こえた。
膿んだ甘さがプラスされた声が。
「ぶはっ」
そこにいたのは、胴から下の裸体をスライム状のなにかで覆い、
触手のドレスに身を包んだ、フランツィスカ姫だった。
ちょっ、その格好はさすがに無茶苦茶すぎやしませんか……?
「いま、貴方が何を考えてるか、当ててみましょうか?」
かすかに眉間にシワを寄せた姫様を言いくるめようとしたが、
かつて勇者だった者達と、この惨状の元凶
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