「今回はスムーズにいきそうだな」
特に出鼻をくじかれることもなく、魔力で動く特注の巨大馬車に
俺達は乗り込んで『医の楽園』へと出発した。
「何かあればいつでもお呼び下さい」
「よろしく頼むよ」
護衛役のリーダーであるデュラハンに笑顔で言葉を返し
俺は堂々と昼間からワインを楽しむことにした。
「あ〜〜〜、また飲んだくれるの〜?」
「なあ、この様子だけ見たら、誰でもお前をダメ亭主だと思うぜ」
気にせず飲むことにする。
「やっぱり魔界産のワインは甘さが段違いで強いなぁ」
「アンタって本当にふてぶてしいよね」
「失礼な。これでも空気読みコンテストでは断トツ一位だったんだぞ」
「なにそれ」
プリメーラが目を丸くした。
「たった今考えた」
「…現実逃避に続いて虚言癖まで追加とか
やめてほしいんだけど」
冷たいなマリナは。幼なじみという過去はどこいったんだ?
「まあまあ、旦那様も旅行で
テンション上がってるんやさかい、多少の迷走は大目に見ようやないの」
「今宵はいいこと言うなー」
俺は賢い稲荷ちゃんを抱きかかえて頭を撫でてやった。
「だ、旦那様ぁ……」
お返しとばかりに目を細めて
体やフサフサ尻尾を俺にすりすりしてくる。相変わらずいい触り心地だ。
「……いきなり私達を蚊帳の外にして二人だけの世界に入り込むとか
どういう了見ですか?レスカティエからまだ出てもいないのにこんな有様なら
今後の先行きがとてつもなく不安なんですけど」
周りそっちのけでイチャついてたらサーシャ姉のお説教が始まった。
「か、堪忍してえな……」
俺の横でかわいそうな稲荷ちゃんがしょんぼりして頭を下げた。
ポト
今宵が腹のあたりで蝶結びにしてる帯から何かが落ちた。
「なんだこれ」
それを拾ってみる。どうやら封書のようだ。
「そや、すっかり忘れてたわ。
デルエラ様から、旦那様へ渡してって言われてたんやった」
「なんでわざわざ…」
別に疎遠な間柄じゃあるまいし、会って伝えればいいだろうに。
とりあえず、読んでみるか。会話より文章にしたほうがいい類の話かもしれん。
『どう?
大所帯の新婚旅行を淫らに堪能してる?
それとも、いつものようにおどけて、あの子達に叱咤されてる?
まあ、いずれにせよ長旅になるのだから、程々にしなさいね。
ところで、どういう理由か知らないけれど貴方のことを目の仇にしてる
少年が最近レスカティエの各地で目撃されてるんだけど、心当たりないかしら?
もしかしたら今回の件をかぎつけて
貴方達の前に姿を現すかもしれないけれど、その時はよろしく』
あー、心当たりあるねえ。
「あのミニ王子、リベンジに来ていたのか」
どこまで無謀なんだ。
「性懲りのないガキだなぁ。
どうせまたお前に喰われるのがオチだっていうのに」
「大勢の前であんな痴態を晒したのが、よっぽどの屈辱だったんだね。
もしかしたら、死ぬ覚悟で来ているのかもしれないよ」
その後にお前はもっとひどい痴態をノリノリで晒したがな。
「ねえ、おにいちゃん」
ミミルが目を合わせてきた。
語尾がまったく間延びしていない。真面目な話のようだ。
「これってさ……処分は一任するってことだよね」
「そうなるな」
レスカティエの、ましてや王都内でのトラブルとなればデルエラとしても
見逃しはしないが、そうでないなら、現場の判断に委ねることになる。
つまり、あのヒヨコ勇者にもし出会ったら、撃退するなり逃げるなり
堕落させるなり見逃すなり、好きにしていいということだ。
人間を堕とすのにあまり乗り気じゃない俺の心情をデルエラが
配慮してくれたのだろう。今回の件に裏などはなく
単に俺が彼女の好意をいぶかしんで、邪推していたに過ぎなかったのだ。
…けど普通は疑うよな。だってデルエラだし。
「なんなら、その少年勇者……アタシが堕としちゃおうか?」
狩りへの期待に胸を膨らませ、プリメーラが牙をむいて不敵に笑った。
「遭遇してから考えればいいさ。
といっても、そんな簡単に出会えるとは思えないが」
ずっと出会わないまま、今回の旅が無事に終わる可能性だって充分にある。
「おい、そこの子供、止まれ!」
馬車の外からさっきのデュラハンの声が聞こえてきた。
「簡単だったねー」「ちょーよゆーだったねー」
…………なんだ、なんなんだ、この展開は。
俺は雨男じゃなくて不運男なのか?
「ちょっとどいてくれ。アレの狙いは俺みたいだから」
俺は馬車から降りると護衛をかきわけ、これからの選択に悩みながら
小さな不審者のほうへと近づいていった。
深くフードをかぶり顔の下半分を布で隠して剣を構えているその姿は
子供が盗賊の真似事をしているようで、ついニヤニヤしてしまう。
「こんな暴挙をお前のお兄ちゃんがよく許可してくれたな」
「この事を兄さんは知らない。自分
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