「ここからは戦いではない。一方的な蹂躙だ。
せいぜいもがくがいい」
などと啖呵を切ったのはいいが、どうしたものか。
『実際に蹂躙したら嫁が五人追加されたよ、やったね!』なんてのは御免こうむる。
女房の数が二桁いっていいのはデビルバグやラージマウスの旦那くらいのものだ。
それに俺は魔王に与するつもりなどない。
心身ともに堕ちたマリナ達と違って、俺はまだ人間だからな。この五人を魔物にするのは抵抗ある。
けど、堕とさずにボコるだけに留めておいても
どのみち魔物娘どもが群がってあっという間に同胞に変えるのも間違いない。
………それにしても時間がない。
俺はチラッとリリム×2のほうを見てみると、彼女らは和やかな雰囲気で
美しい真紅を湛えたグラスをぶつけあって乾杯していた。ぐぬぬ。
あいつらが俺の意見を尊重して善処するようには全く見えないし思えない。
「…どうしました?
大口をたたいておいて怖気づきましたか?」
「………」
『ネクスト』の挑発などどこ吹く風で、俺は黙してしばし思案し、とりあえず
こいつらを叩きのめして、一杯やってから考えることにした。
ということで、俺は左手をポッケにつっこんだまま、人差し指を立てた右手を
ぶっきらぼうに振った。
腕の、肘と手首の中間からサキュバスの翼が生えてきている、右手を。
『なっ!?』
いくつもの驚きの声が耳に届いてきた。特に司会のフェアリーの声が一際でかい。
バシュウウウウッッ!!
強いエネルギー同士が激突したとき特有の、蒸発音じみた轟音が闘技台に響いた。
俺の指先から放たれた『輝光』が『ネクスト』の放った『輝光』にぶつかり相殺された音だった。
「言っておくが」
「ちいっ!」
『明星』が俺の話をさえぎり、退魔の力が籠められた符を
急いで何枚も飛ばしてきた。
ところで最後まで言わせろこの妖狐モドキ。まだ最初のさわりしか触れてないだろが。
「フン」
俺は自分の背中の、腹部の真裏にあたる部分から、稲荷のあのモフモフ尻尾を生やして
前方に一振りすると、尾から何十枚もの符――俺の魔力で作られた
不浄の紙吹雪――が放たれ、一目散に『明星』へと飛んでいく。
「うあっ!?
あっ、あああああああああああ!?」
俺の符は、飛来してくる同族を正確に迎撃して燃え尽き、残りはそのまま飛び続け
『明星』の身体へ張り付いて強力な魔力を流しこみ、彼女を無力化させた。
「あー、まず一人」
俺はあまりやったことがないが、なんとか冷酷さをこめてそう言ってみた。
『そんなやる気なさそうに言うから冷たさがでないのよ』
デルエラの駄目出しがきた。
やる気ないんだから仕方ないだろう。なさそう、じゃなくて、全くねーんだよ。
「おのれっ!」
「………………!」
長引けば長引くほど不利になると判断したのか、『グリーン』と『サード』が
同時に二方向からこちらに駆け出してきた。
「ふむ…」
どちらを狙うかだが……まあ、スピードの遅いほうだな。
メキメキという肉や骨のきしむ音を立てて、俺は左肩あたりから今度はワーウルフの腕を生やした。
「ハリネズミになるのはお好きかな?」
そう言うと、俺は剛毛に包まれた腕の先から伸びる鋭い爪を、矢のように噴射した。
狙いは当然『グリーン』だ。
風を切る音をさせ、人を人ならざるモノへと変える必殺の矢が雨あられと飛んでいく。
その全てを防ぐことは彼女にはできまい。
「二度も飛び道具が通じるかっ!」
その言葉通り『グリーン』に向かった矢は減速し、彼女に命中することなく
ことごとく闘技台に力なく落ちていった。なるほど『弓矢殺し』の魔法か。
……しかしだ。
「うっ!?」
俺にあと少しで大剣が届くというところまできていた『グリーン』が
慌てて足元を払おうとする。足首から絡みつく何匹もの蛇を。
そう、それは俺の飛ばした爪が変異した、エキドナの力の具現だ。
その蛇どもは、払いのけられるより先にその牙を『グリーン』の肌に突き立てていく。
「二人目」
悔しげな表情で倒れゆく『グリーン』を見下ろし、俺はピースサインをするように
二本指を立ててみせた。
「…とったぁ!!」
「おっ。確かに、これは不覚をとったな」
これまで無口を通してきていた『サード』が、俺の目と鼻の先まで間合いを詰めると
少女のようにかわいらしい声をあげ、銀のナイフを俺の喉に突き刺した。道理で黙ってるわけだ。
「そこまで喜ぶほどの攻撃でもあるまいに」
なんだか神聖な力が籠められてるようだが、こんなもんいまさら効くか。
俺は鼻で笑うと、足元からローパーの触手をうじゃうじゃ生やして、
なぜか勝ち誇っている『サード』を絡め取ろうとした。
だが。
『ネクスト』が笑みを見せた。勝利を確信した笑みを。
「強大な力を誇る者の弱点は、慢心と相場が決まっている……
……力と肉欲に溺
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