当たり前だが会場は緊迫したムードに包まれていた。
実権はともかく、形式上はこの国の女王の夫である俺が
首と胴を泣き別れさせられそうになったのだから、そりゃ緊迫しないほうが
無理な話ではある。
『あわわわ…!』
悲惨なことに逃げ遅れた司会役の妖精が、俺の周りを飛び回ってアタフタしていた。
「あの蛇女は私がやる」
「では、魔女ちゃんは、わたくしが相手しますわね」
五人の中でも頭一つ高かったリザードマンの大剣使い『グリーン』が教官の前に立ち、
おっとりとした喋りのダークエルフ『ブラック』がミミルを好敵手に選んだ。
むろん、他の三人のように、この二人も既に人間の姿になっている。
「今度は本気でいかせてもらう」
「本気でやればどうにかなる………とでも?
そう思っているなら敵を、いえ、戦いというものを侮りすぎですよ」
かたや、マリナが『ネクスト』と視線の火花を散らしていれば
「がぅるるるっ……!」
「…………」
プリメーラと『サード』が唸り声と沈黙で張り合い
「お初にお目にかかります。今宵さま」
「え、ウチのこと知っとるん?」
おや?
「分家のそのまた分家の筋であるわたしのことを、貴女はまったく
知らないでしょうが、わたしはよく存じ上げておりますよ。
頭首になれるだけの才と実力を持ちながら、勝手に出奔したあげく、魔道へと堕ちて
天之宮の名を汚した恥さらし……ですよね?」
「!!」
妖狐に化けていた少女――『明星』の容赦ない罵りに今宵の体がビクリと震えた。
「貴女のお姉さまも、実の妹である貴女の醜態に
とても失望なさっておりまして、それでわたしが派遣されたのです。
『天之宮の頭首として、命じます。我が一族が生み落とした
恥ずべき存在、天之宮今宵を粛清せよ』………とね」
さらなる追撃を喰らって、今宵の精神的ライフが限りなくゼロに近くなったのが
俺からも見て取れた。
「失望…お姉が、ウチに、粛清………う、うそや、そんなん…」
親愛する姉直々の抹殺指令に衝撃を受け、今宵は符を摘まんでいる指を震わせ
動揺に満ちた声で弱々しく呟いていた。
「こ、こらっ、今宵!
そんなでまかせ真に受けるんじゃないわよっ!!アンタらしくないぞっ!」
しかし、狼娘の叱咤もその耳には入らないのか、
黒き稲荷はどうしていいかわからずに泣きそうな顔で俺のほうを向いて
「ウチ、ウチは……旦那様、ウチはどないしたら…」と、救いを求めてきた。
なので俺はこうアドバイスしてみた。
「今の話聞かなかったことにしたらよくね?」
『はあああああああ!?』
経緯を見守っていた周囲が驚愕の叫びをハモらせた。
『そんなことできるのは貴方かケサランパサランくらいなものよ』
自分自身に拡声魔法を使ったのか、男女問わず心を惑わせる魔薬のようなデルエラの声が
響くというよりもしみ込む様に会場に満ちた。
「ケサランパサランでも無理だと思う…」
黙れスパンキングフェチ淫魔。
「じゃあ面倒くさいがそこのニセ妖狐を論破してやるからよく聞け。長いぞ。
まず、こいつが今宵を始末しに来たのは正しいが、それは今宵の姉の命令ではない。
なぜなら頭首の座を争えるだけの力量を持つ今宵を始末するのに
分家の分家を派遣するとかありえない。いくら実力があろうが
相手の土俵で相手より格下の者をぶつける馬鹿がいるわけがない。
普通に考えれば退魔師である今宵にとって相性の悪い者をぶつけるか、
もしくは、一人か二人くらい手練の者をつけて派遣されるはず。単独とかねーよ。
じゃあなんで単独かというと、今宵の姉が本当に頭首になってて
しかも一族の実権をほぼ手中に収めているため。
頭首ではないか、またはお飾りのトップなら、討伐許可の文書なり強引に一筆書かせて
それを今宵に見せて動揺を誘ったり、一族から協力者を募れもしようが、
お前がそれさえできてないということがその裏づけになってる。
天之宮の一族がいる地域は反魔物勢力が強いそうだし、たぶん今宵の姉は
『無駄な犠牲を出すより静観すべき。粛清したところで利益などないのだから。
どうしてもやりたいなら自己責任でどうぞ』
といった姿勢を打ち出してるんじゃないか?
これなら、反論もそれほど出なければ、日和見的な連中も同意するだろうし、
妹への脅威もたいしたものではなくなる。
で、実力があるが政略的にはさほど重要ではない立場の、分家の分家筋である
お前にお鉢が回ったきたというのが真相だろ。
仕留められればよし、できなくてもたかが下っ端一人失うだけだからな」
はい論破。
先ほどまで今宵を言葉で苛んで、勝ち誇ったような顔をしていた小娘が
下を向いて押し黙った。
「さらに邪推するなら……お前の力を妬んだり、または、近い将来、
自分達の立場を危うくする……と考えた連中による厄介払いもあると俺はみるがね。
形骸では
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