飢えと寒さと温もりと

「えーこのようにトンボのオスの生殖器には鉤状の構造があり、
交尾の際に前のオスが残した精子をかき出すようになってます」
老齢の教師の講義はほとんど頭に入らなかった。
サキュバスに魔力を抜かれたのが二日前。
それ以来体はだるいままで、夏だというのに寒気が治まらない。
我慢して補習に出てみたけどやはり寝ているべきだったと思う。
しかし自分のベッドで寝ているというのもそれはそれで――
「なあ、何かいい匂いしねえか」
「ああ。石鹸か何かかな」
背後の席で男子生徒がささやく声がする。
「女の子の髪の匂いに似てるな」
その言葉にボクの背中がびくりと震えた。
魔物になってからは、共同の風呂に入れないので
濡らしたタオルで体をふくだけで我慢してきた。
汚れは多少落ちても、たぶん体臭までは落ちていない。
これは早く部屋に引っ込んだ方が良さそうだ。

「やあクリス、補習かい」
教室を出て寄宿舎に戻ろうとした時、声をかけられた。
「レニ」
声をかけてきたのは、一年の時相部屋だったレニだ。
背の高いレニの上半身は汗だくになっていた。
肌は日に焼けて赤みを帯びている。
「どうしたのその汗」
「午前中ずっと馬に乗っていたんだ。馬術部のメンバーが何人か実家に帰っているから、
馬を走らせてやる人手が足りなくてさ。厩舎の馬を順番に外で走らせていたら、
午前中一杯ずっと走りっぱなしだったってわけ」
楽しそうに話すレニの言葉をボクは上の空で聞いていた。
すぐ目の前から、十代の男の子の汗の匂いがただよってくる。
シャツから露出したボクの肌は、まるで暖炉にあたるように
運動ですっかり高ぶったレニの体温を受け止める。
二日前から寒気が続いていたボクは、温もりに飢えていた。
不意に、レニの胸板に吸い寄せられるようによろめいてしまう。
「どうしたんだクリス。大丈夫か? 顔が赤いぞ」
レニのこえではっとなり、ボクは我に返った。
「ちょ、ちょっと風邪気味なんだ」
「へえどれどれ」
レニの手がボクの額に触れる。
さっきまで暑い日差しの下にいただけあって、その手は暖かい。
レニは大家族の長男ということもあって、面倒見のいい性格だ。
目立つタイプではないが思いやりがあり、空気を読んでくれる。
おかげで相部屋だった時もケンカひとつしたことがなかった。
「うーん」
首を傾げたレニは、いきなりボクの額に自分の額をくっつけた。
近い。近すぎる。
「あーやっぱりちょっと熱があるな」
下腹部がじわりと熱くなってきた。やばい。
「ごめん、気分が悪いんでもう部屋に帰るね」
レニから身を離すと、ボクはあわててその場から立ち去った。

自室に戻り、鍵をかけると、ボクはトイレに駆け込んだ。
ズボンを降ろすと、案の定パンツはびしょびしょに濡れている。
もちろん、お漏らししたわけじゃない。
目の前のレニから受けた刺激で、ボクの心とは関係無しに、
体が勝手に男の子を受け入れる準備を始めたのだ。
魔物の体になり、しかも精に飢えているからなのだろう。
ため息をついた時、視界に入ったズボンの尻の部分の生地に
小さな染みができているのが目に入った。
ズボンまで濡らしてしまった。
もしかしたらレニに見られたかもしれない。
恥ずかしさと情けなさでボクは泣きたい気分だった。
でも泣いたからといって何かが解決するわけじゃない。
ズボンとパンツは履き替えるとしても、
その前に濡れた下腹部の後始末をしなければならなかった。
柔らかいトイレットペーパーで内股やお尻からぬぐっていく。
敏感さを増した肌は、強く拭けば痛みを訴え、
そっと優しく拭けば快感に震えてしまう。
気持ちを静めようにも下腹部の疼きは増すばかりで、
そのせいか中心部分は拭いても拭いてもなかなか乾かなかった。
「くっ、こんなことで――」
疼きを無視してベッドにもぐりこんだところで、
寝具には男の子だったころの自分の匂いが染み付いている。
そう簡単に眠れるわけがなかった。
それならばいっそ――。

紙を捨て、指を下腹部に這わせる。乾いたばかりの秘所は
すぐに中心からあふれた密で湿り気を帯び始めた。
周囲の花びらの部分は、充血し、ぽってりと厚みを増している。
いつでも男の子を受け入れられる状態だった。
太ももから秘所を通り過ぎ、反対の太ももへと優しく撫でる。
快感に鳥肌が立つが、やはりどこか物足りない。
イっても疼きが治まることはないと分かっているからだろうか。
それともあって欲しいものが無いからだろうか。
親指で少し強めに秘所の中心を押すと、
止まない疼きが一瞬強い快感に変換される。
優しく撫でる手が、強く押し付けられる指が、
もしレニのものだったら――
そんな考えが頭をよぎった瞬間、強い快感が押し寄せた。
「ふっ、うぅんっ」
身を震わせ、よじる。体の各所にむずむずとした
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