「だいぶ奥まで来たな」
「もう屋台もあんまりないね」
残念そうにきょろきょろと周りを見回すポト美。
「お前、まだ食うの? さすがに太るぞ」
「ち、違うよ! 射的以外遊んでないなって思って」
「あー、確かに遊戯系の屋台はぜんぜん寄ってないけど」
んー、でも特にやりたいものもないなあ。
もうクジ引きや紐引きでゲームソフト当てようと頑張るほど子供じゃないし。
ヨーヨー釣りだのスーパーボール掬いも昔ほどときめかなくなったしな。
・・・そういや昔、スーパーボールをポト美の壺に投げ込んで遊んだことがあったっけ。
丸い壺の中でボールが跳ね回ってめっちゃ楽しかったけど、ポト美がガン泣きして後でおじさんと親父に拳骨喰らった覚えがある。
「そういえばさ、昔ユウ君が金魚とってくれたことあったよね」
「え、そうだっけ」
そんなことあったかな。俺小さい頃は金魚すくい系苦手だったと思うけど。
「そうだよ。私が金魚見てたら“おれにまかせとけ”って言ったくせに結局一匹も捕まえられなくて、屋台のおじさんからおまけでもらった一匹を“とったけどいらないからあげる”って私にくれたんじゃない」
とれてねーじゃねーか俺!
ええ〜、なにそれ俺めっちゃカッコわる。・・・幼馴染のこういうところがいやなんだよ、昔の恥ずかしい過去とか知ってたりさー。
「つーかなんでお前そんなこと憶えてんだよ。忘れろよ恥ずかしい」
「えっ、だって、その・・・ほ、ほら、その時の金魚、まだうちの居間で元気に泳いでるし!」
なんと、ご存命でしたか・・・
「金魚まだ生きてたの?」
「うん」
「長生きじゃね?」
「まあそうだね」
「・・・それ魔物化してたりしない?」
「でも金魚って長いと10年以上生きるっていうし。・・・ただずっと一匹で飼ってるからちょっと見た目が寂しそうなんだよね」
「ふーん」
そうか、なら・・・
「じゃあ、また俺がとってやろうか」
「えっ」
「一匹と言わず、十匹でも二十匹でもとってやるよ」
「いや、一・二匹で充分だけど。だいたいユウ君そんなこと言っていいの? また昔みたいに一匹もとれないんじゃないの〜?」
そう言ってポト美はいたずらっぽく覗き込んでくる。
こやつ、俺を舐めくさっておるな。
まあ良い。俺の金魚すくいの腕を見ればそんな軽口は叩けなくなるのだからな!
「ふふん、俺を小学生の頃と同じと思うなよ」
そう、俺は昔の俺とは違う。
中学の頃のダチが金魚すくいの猛者で、そいつにコツを教わった俺はメキメキと腕を上げ、しまいには屋台のねーちゃんに『あんたら・・・それ以上とったら簀巻きにして暗黒魔界に売り飛ばすで』と暗い眼つきで言わせたほどなのだ!
「つってもこのへん金魚の屋台なんてねーな」
「入り口の方で見たけど、戻る?」
「うーん、いや、もうすぐ花火の時間で混むしな・・・金魚は帰りでもいいか?」
「いいよ。と れ る な ら ね ♪」
こ の や ろ う !
「じゃあちょっと早いけど裏手行くか」
怒りをぐっと飲み込み、俺はポト美の手を引いて神社の奥へと進んでいった。
* * *
「あのー阿部さん。これは・・・?」
ゴンザレスこと権田君の両手に握るは明るく輝くサイリウム。
そして眼前にせまるは神楽の舞台。
「大丈夫。タイミングは私が見るから、合図したらさっき教えたコールを一緒にしてね。あと興奮しすぎて周りの人にぶつからないように注意して」
「あ、いえそうじゃなく。僕が聞きたいのはなぜ祭りの神楽なのにこんなアイドルのライブみたいな装備をしているのかということなんですが・・・」
「シッ、そろそろはじまるわ。静かに」
真剣な口調で黙らされる権田君。
―それでは次にまいりましょう。栄露須(えろす)社中による演奏と踊りです。音楽は“ソーマ神権現”―
暗転した舞台に笛の音が響き、続いて弦楽器の調べ。
徐々に明るくなる照明に3人の影が浮かび上がる。
「キャー! ルビィお姉様ー!」
「阿部さん!?」
突然黄色い歓声を上げる阿部さんに驚くゴンザレスこと権田君。
舞台の上では2人のガンダルヴァと、それに挟まれたアプサラスが照らし出された。
* * *
ここらはさすがに静かだな。
神社の奥まで歩いてくると祭りの見物客もほとんどいなくなり、周りには俺とポト美の二人だけだ。
もう少し行くと地元民しか知らない花火スポットがある。たぶん権田たちともそこで合流できるだろう。
・・・あれ?
「こんなところに屋台がある」
「え? だってこっち参道じゃないよ」
人通りのない暗い横道に屋台の提灯がいくつも並んでいた。
屋台のお姉さんがこっちに気づいて手招きをする。
「お、金魚すくいの屋台もあるぞ。ちょうどいい、ここでとってくか」
そうして俺が屋台に向かって踏み出した途端――
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