長かった夏休みも終わりに近づき、セミの声も変わる夏の夕暮れ。
いつもより人通りの多い田舎道を、俺は友人と歩いていた。
「おい、おせえぞ」
「ちょっと待ってよぅ、まだ浴衣になれなくって・・・」
友人の甘えるような声に、
「うるせえ。気持ち悪いから変な声出すな。男のくせに」
一言で切って捨てた。
「チェッ、そんな冷たいもの言いじゃ女にもてないぜ?」
「やかましい。だいたいなんだ、今の猫なで声。気持ち悪すぎて鳥肌たったぞ」
「ケケッ、涼しくなって良かったじゃん」
なぜこんな夏の最後の日曜日、男二人で不毛な会話をしているかというと・・・
「なあ、ほんとに阿部さん来るんだろうな?」
「来るよ。ポト美が呼ぶって言ってたし」
「壺田さんが呼ぶなら確実か。あの二人仲良いもんな・・・まるで実のしm」
「おっとそれ以上いけない。この前ポト美に『お前まるで阿部さんの妹みたいだな』って言ったら殴られたぞ。グーで」
俺の言葉に友人は呆れた表情を浮かべ、
「お前、面と向かって言ったの? そんなんだからデリカシーねえとか言われるんだぞ」
「うるさいな。だいたいお前付いてこなくてもいいんだぞ。お前が来ること、ポト美も阿部さんも知らないんだから」
「そんなァ、世知がれえよ旦那はよゥ! 我がクラスの清純エロ女神こと阿部さんと一緒に夏祭りだなんて、そんな大イベントを独り占めしようったってそうは行かないんだからね! どうせ幼馴染の壺田さんをダシにして阿部さんとお近づきになろうなんて浅はかでさもしい魂胆だろ!」
「グッ、そ、そんなことはナイゾ」
チッ、的確に痛いところをついて来る。エスパーかこいつは。
「いいから。何も言わなくていいから。俺そういうのわかっちゃうから。察しちゃうタイプだから俺」
「察したならついてくんなよ・・・」
「おいおい〜、いいのかな〜? だいたいお前、壺田さん以外の女子とまともに話したことないんじゃないの〜?」
「・・・」
ぬうう、的確に痛いところをついてくるな! エスパーかこいつは!?
「まあ安心しろよ。俺はなにもお前の邪魔をしようってわけじゃない。むしろお前の助けになるつもりなんだぜ?」
「ほう?」
面白いことを言うやつだ。〇すのは最後にしてやろう。
「つまりはだ、お前は親友の幼馴染というアドバンテージを、そして俺は女子と仲良く会話できるというコミュニケーションスキルを互いに提供しあうことで、リスクは半分、チャンスは二倍にしようってわけさ。最終的に阿部さんがどちらを選ぶか、それは彼女次第ということでさ」
「ふむう・・・」
こいつの言うことも筋は通っている・・・ような気がする。
「どうだい? それともひとりで阿部さんを落とす自信がおありかな?」
「むむむ・・・」
しばらく悩んだすえに、俺は手を差し出す。奴はニヤリと笑い、
「阿部さんイズマイワイフ」
「アプサラスイズベストマモノガール」
俺たち二人は熱い握手を交わした。
* * *
―私、花火の時間までにちょっと行きたいところあるの。ゴンザレス君は一緒に来てね―
―ああっ、そんな阿部さんなんと積極的な。あと俺の名前は権田です―
・・・あ、ありのまま今起こったことを説明するぜ。
鳥居のところで待っていた女子2人(内訳:女神1人、女児1人)と合流し境内に足を踏み入れた瞬間、女神が友人を連れて去っていった。
何を言っているかわからないかもしれないが俺だって何を言ってるかわからない。
というかわかりたくなかった。
俺がこの日をどんなに待ち望んでいたことか。
この日のために用意してきたセリフ
『浴衣似合ってるね』
を阿部さんに言う間もなく、俺たちの戦いはこれから登りはじめたばかりだこの長い長い第1部完になってしまった。
どうしてこうなった。
「え、えーっと・・・」
声に振り返ると同じく親友に置いていかれたポト美が困ったような顔でこっちを見ていた。
「どうしよう・・・?」
そんなこと言われたって俺だって困る。
俺の恋は始まる間もなく終わってしまったというのに、どうやら俺の人生はこれからも続いていくらしかった。
「まあ・・・とりあえず見てまわろうか」
せっかくの年に一度の夏祭り。このまま帰ってはあまりにみじめだ。
万が一にもここで新たな出会いがないとも限らない。
俺はまだおろおろとしている幼馴染の手を取り、薄暗がりの提灯行列に浮かぶ屋台の参道へとうながした。
「あっ///」
「ん? どうした」
声に振り返るとポト美がつないだ手を見つめ、黒い肌を赤く染めていた。器用な奴だな。
「早く行こうぜ、毎年花火の時間になるとものすごい混むし」
「う、うん」
昔みたいに迷子になられたらたまらん。
小学生の頃、ここでポト美とはぐれて小一時間さがしまわっ
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