ユウシャスレイヤー!

ピンポーン

「どちらさまですか?」
突然の訪問者にあわてて玄関へとやってきた人物、サトウ=クンはインターホンの受話器を取る。
ノーディスプレイタイプのインターホンからは訪問者の声が聞こえるのみ。

『こんにちは。サトウ=クン』
「スズキ=サン? 一体どうしたの? というかよくうちの住所知ってたね」

インターホンの向こうから聞こえてきたのは学校のクラスメイト、スズキ=サンの声だ。
サトウ=クンとは出席番号が近いこともあり、実験や実習では一緒に活動することも多い女子である。

しかしそれはあくまで学校内での話。雑談やプライベートな話もしないではないが、学校外で会ったことはいまだかつてない。
そのスズキ=サンが家の玄関の向こうに立っているのだ。この不思議をいぶかしみながらサトウ=クンは扉を開けた。

「えへ、来ちゃった」
「スズキ=サン・・・?」
サトウ=クンはスズキ=サンの様子にいつもと違うなんかを感じた。

スズキ=サンはクラスの中でもけして目立つほうではない。
サトウ=クンから見てもおとなしく、ともすれば地味という印象を与える女子である。
しかしいま目の前でにこやかに笑っているスズキ=サンは、いつもと同じ制服姿ではあるものの、どこか人の目を惹きつけるアトモスフィアを漂わせているのだ。

学校のことで相談があるという彼女をサトウ=クンは自室へと案内した。
スズキ=サンは物珍しそうに部屋の中を見回している。
「ご家族の方は?」
「今日は親が泊まりで出かけちゃって。そういえばスズキ=サンは休みなのに制服なんだね。なにか学校に用事でもあったの?」

「ふうん、そうなんだ♪ ・・・え、制服? ちょっと私変わっちゃったから、もしかしたらサトウ=クンわからないかもと思って。でも、そんな心配いらなかったね」
いつもと同じはずなのに、どこかオイランめいた色気を感じさせる声。
その言葉をいぶかしみ、サトウ=クンはじっと彼女を見つめる。

サトウ=クンの脳はその時やっと事態を理解した。

「アイエッ!? サキュバス!? スズキ=サン、サキュバスナンデ!?」
大きめの髪飾りかと思ったそれは未発達ながらも凶悪さを秘めた角。
背後に見えるのはまだ色素の薄い灰色であるもののまごう事なき翼と尻尾。
そう、彼女スズキ=サンはあからさまにサキュバスなのだ!

「もう、我慢ができないの! イヤーッ!」
「アバーッ!?」
体を砲弾と化してサトウ=クンに体当たりしたスズキ=サン。二人はそのままひと塊の物体となって2mほど飛翔したのち、サトウ=クンのベッドへとテイクダウンした。

「ちょっと待って、いきなりこんなのおかしいよ!」
「大丈夫、一緒におかしくなろ? ずっとずっと、どこでもどこまでも一緒に・・・」
サトウ=クンの抗議に聞く耳を持たないスズキ=サン。

「サトウ=クン、サトウ=クン、サトウ=クン・・・」
サトウ=クンを抱きしめながら恍惚の表情を浮かべるスズキ=サン。
いくら魔物になりたてのニュービーサキュバスでも、力で人間に負けることはけしてない。

「お願いだから、落ち着いてよ!」

ドクンッ

そのときサトウ=クンの体に今まで感じたこともない力が沸いてくるのを感じた。

 * * *

ニュービーサキュバス・スズキ=サンは困惑していた。

ついさっきまで、全てがうまくいっていた。
一向に距離の縮まらないクラスメイトのサトウ=クンとの関係に疲れたスズキ=サンは、義姉のサキュバスに無理に頼み込んで得た魔物の体とともに、休日のサトウ=クン宅へ強襲をかけ、彼をベッドへ押し倒すことに成功したのだった。

しかし愛する男を魔物の力で押さえつけ、今まさに誓いのマリッジ・セップンをしようとしたその時、下になったサトウ=クンは信じられない力を発揮し、彼女の拘束を振りほどいたのだ。

いくら魔物になりたてのニュービーサキュバスでも、力で普通の人間に負けることなどありえない。一体なにが起こったのか一瞬あっけにとられるスズキ=サン。
しかしニュービーといえど魔物の本能が、サトウ=クンの中に力強く渦巻くものをすばやく、そして敏感に察知する!

感じるのはまさしくユウシャのソウル!

「アイエエ!? ユウシャ!? サトウ=クン、ユウシャナンデ!?」
突然のユウシャソウル憑依にニュービーサキュバスは声を上げて驚嘆!

ユウシャとは古来より魔物にとっての天敵!
旧時代に実在したと言われる伝説上のユウシャ“ドラゴンスレイヤー・トロノコ”は、たった一人で何百、何千もの魔物を殺害したといわれている!
もしサトウ=クンに降りたソウルが旧時代のレジェンド級ユウシャとなれば、スズキ=サンの命は、ロウソク・ビフォア・ザ・ウィンドの故事のごとく瞬時にかき消されてしまうだろう!

サトウ=クンの虚ろなま
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