ポットの魔人

年の瀬も近づき、日の落ちた家路を歩く俺の手には、小さな荷物があった。
なんてことは無い保温ポットだったが、仕事のメドがついたことでの自分へのささやかなご褒美のつもりだった。
アパートに着いて早々、買ってきたポットを使ってみる。

あ〜、あったかい。

お湯を入れたポットからは、ほんのりと人肌のような温かさを感じた。
・・・
あれ? 保温ポットが暖かくっちゃあダメじゃないのか?

さては不良品をつかまされたかと軽いショックを受けながらも、冷えた手は自然にぬくもりを求めて、断熱できない保温ポットをさすっていた。

その時、


ポフン

「呼ばれて飛び出て、ポットの魔人、いま参上! さあ、あなたの願いはなーに?」
「・・・」

ポットのフタが開き、煙とともにアラビヤンな服装の少女が飛び出してきた。

「あれ、ちょっと聞こえてる? もしもーし(コンコン)」
「ああ、はい、聞こえてます・・・」

あまりのことに放心していたら頭を小突かれた。

「よかった。それじゃあ願いごとを言って。なんでもひとつだけ叶えちゃうよ!」

これは、つまりあれか、絵本とかで見た魔法のランプ的な。
ん? 今なんでもって言った? そうするとあれとかそれとか・・・望みなんていくらでもあるぞ! まさか自分にそんなチャンスがめぐって来るとは!

「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「ウンわかった!」
 ・
 ・
 ・
「よし決まったぞ!俺の望みは──」
「はい、じゃあ願い叶えたから帰るね。でも『ちょっと待つ』のが願いなんて、お兄さん欲がないね。そんじゃあねー」

ポフン

「・・・」

小さな音とともに少女は消えた。そして、冷たくなったポットを何度さすっても、少女は二度と現れなかった。


〜Take2〜


「呼ばれて飛び出て、我、参上! あなたの願い事、なんでもひとつ叶えちゃうよ!」

これはあれか、絵本とかで見た魔法のランプ的な。
・・・でもなあ、よくよく考えたら魔法で叶えて欲しいものなんて、別にないんだよなあ。そりゃ貧乏だけど、身の丈にあった生活してるからこれといって不満があるわけじゃないし・・・。
あ、そうだ。よくあるお約束のやつ、あれ願ったらどういう反応するんだろう。
思いっきり拒否られても話のネタにぐらいはなるかな?

「俺の願い、それは」
「それは?」


「魔人よ、俺の下僕となって、未来永劫俺の願いを叶え続けろ!」
「おっけー♪」

「え?」
「それじゃあ、末永くよろしくね? だ・ん・な・さ・ま♪」

え? え?


〜Take3〜


「呼ばれて飛び出てジン・オブザ・ジャーン! あなたの願い事、なんでもひとつ叶えちゃうよ! あ、でもルールとして願い事の数は増やせないよ。それと──」
 ・人殺しは不可
 ・他人を操るなどは不可
 ・死人を生き返らせるのも不可
以上のルールを魔人は提示した。なるほど、これなら無茶苦茶な願いは叶えられないわけだ。
魔人の世界もうまく出来てるもんだな。

「んー・・・、これは願いじゃなくて質問なんだけど、つまりどういうことができるの?」
「私にできることならなんでもできるよ!」

その“私にできること”の内容を知りたいんだが・・・。そういえば昔見たアニメでは、魔法の力でお姫様と結婚してたな。

お姫様か・・・
その時、俺の脳裏に一人の女性の姿が浮かんだ。

高校の時の同級生・リリ村さん。

本人は強く否定していたが、どこかの小国のお姫様だと皆から噂されていた。現に俺は一度だけ、学校の裏に馬車が迎えに来ていたのを見たことがある。いったい道交法はどうなってるんだ。
また彼女は誰もが振り返るような美しさと、どんな人にも分けへだてなく接する優しさをあわせ持った、まさに女神と呼ぶべき人だった。
そのため我が母校の男子生徒(及び女子生徒の一部)は、みんな一度はリリ村さんに恋をすると言われたものだ。
そしてそれは当然俺にも当てはまるわけで・・・

た、例えばの話だが・・・この魔人に願えば俺が、リリ村さんとこここ、恋人になっちゃったりなんてしないわけでもないとかそんなゆめまぼろしのごとくなりといえなくもない願いが、叶っちゃったりするんだろうかっ!

「あー、オホン。そ、それじゃあさ、例えば俺が、“お姫様と結婚したい”って願えば、君の魔法でなんとかしてくれちゃったりとか、するわけ?」
「お姫様ぁ? うーん、お姫様は無理だけど・・・“お姫様のような女性”なら叶えられるよ」

“お姫様のような女性”? なんだその“○○○のようなもの”のような女性は。
ああ、でも人を操るのは不可って言ってたし、リリ村さんみたいな女性なら、すでに恋人とか許婚とかいるのかもしれないな・・・

「じゃあその願いでいいね? パッピロポッピロプルルンポン!」
「え、おいちょっ
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