「お、おはよう、タツキさん」
「ガウッ」
ぼくがあいさつをすると、タツキさんはゴロゴロいう声でへんじします。
タツキさんは“きゅうせだい”のドラゴンです。
なんでかはわからないけど、人間のすがたになるのはむずかしいそうです。
タツキさんはドラゴンですから、学校ではたいへんです。
つくえと同じくらい大きなノートを広げて、マジックみたいに大きなエンピツでガリガリと書いていきます。
あんまり大きいのでこっちのつくえまではみ出しているけど、タツキさんはそんなのおかまいなし。
ぼくが「タツキさんせまいよ」っていうと、まっ赤な目でグワッ!ってにらむんだ。
たいいくだって、たいへんです。
今日は大なわとびをやりました。
ぼくとタツキさんがなわをまわす番で、みんなはピョンピョンとんでいくんだけど、
とちゅうからこうふんしたタツキさんがすごいいきおいでまわしはじめて、気がついたらグラウンドにねっころがっていた。
あとでカトウくんに聞いたらエキドナ先生がまっ青になってたって。
お昼も気はぬけません。
今日はたのしみにしていたカレーなので、みんなうれしそうです。
いただきますのあと、カレーをひと口食べたタツキさんがとつぜん
「ゴウッ!」
「わあっタツキさんが火をふいた!」
クラスは大さわぎです。
タツキさんはドラゴンですから、きれいなものをたくさんもっています。
『わー、タツキさんのふでばこ、すごくきれい!』
『これオリハルコンでできてるの?』
『ガフフ』
「タツキさん、ぼくにも見せて」
「グガッ!」
(なんだい、タツキさんケチんぼだな)
「ガウ!」
ゴツーン
「いたい!」
タツキさんは手かげんしてるつもりみたいだけど、ドラゴンの力でなぐられたら頭がぐらぐらします。
今日タツキさんとけんかしました。
入学のとき、となりの稲荷のお姉さんからもらったハンカチ。すごくだいじにしてたのに、タツキさんたらやぶいちゃった。
『タツキさんのバカ! しんじゃえ!』
そう言ったらタツキさん、赤い目を丸くしてこっちをにらんでた。
ぶたれるのがこわかったので、学校がおわると走ってかえった。
そしたら家の前に稲荷のお姉さんがいるのが見えたんだ。
お姉さんにハンカチのこと、なんて言おう。
せっかくもらったプレゼント、やぶいちゃったって知ったら、きらわれるかな・・・
おもいきってあやまろうといきをすいこんだその時、
ぼくは気づいた。
お姉さんのとなりには、男の人が立っていたんだ。
ぼくよりずっと せも高くて、うでも太くて、
それに、お姉さんが今まで見たこともないほど、楽しそうにわらってた。
そして、ふたりはぼくの目の前でキスをしたんだ。
「あらミツオ君、もう学校おわったの? お帰りなさい」
お姉さんがぼくに気づいてほほえんだ。男の人もちょっとはずかしそうにわらってた。
バサッ、バサッ、ズシン
音にふりかえると、少しはなれたところからタツキさんがじっとこっちを見ていました。
(家までおいかけてきたんだ・・・!)
そのあとぼくは走って家に入った。
ハンカチはいつの間にかなくなってた。
***
次の日の朝、空はくもっていて、今にも雨がふってきそう。
まるでせかいのぜんぶがまっくらになったような気分です。
(やだな・・・学校、行きたくないな・・・)
でもかぜでもないのに学校は休めません。
かさをもって家を出た。となりの家はしずかで、お姉さんはもう学校に行ったみたい。
(ゆうしゃがやってきて町中めちゃめちゃにしちゃえばいいのに・・・)
でも今のゆうしゃはそんなおそろしいことはできません。
パラパラと雨がふってきました。
(きょうだんにさらわれたら学校いかなくてすむかな・・・)
でもこわいきょうだんはずっと昔になくなったと先生がいってました。
学校が見えてきました。
(あっ・・・)
タツキさんが校門でまちかまえています。
きのうのしかえしか、からかうつもりかもしれません。
(もう、どうでもいいや・・・)
ぼくはタツキさんのいる校門へ歩いていきました。
(・・・火、ふかれたら、やだな)
みんなタツキさんの横をおそるおそる通りすぎていきます。
(・・・なぐられるの、やだな)
タツキさんは門をガチャガチャならしています。
(・・・わらわれるの、やだな)
タツキさんと目が合いました。
「ガウ」
「えっ」
タツキさんからわたされたのは、ぬい合わされたハンカチでした。
それからタツキさんは、ガウッと言ってなぐりました。
すごくいたかったけど、タツキさんがぬれてるのに気づいたのでかさに入れてあげた。
「おれがキスしてやろうか?」
「火ふくからやだ」
おしまい
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