陰陽師…かつてこの国が「ジパング」と呼ばれていた頃の古来より続く、由緒正しき神職である。
彼らは絆を結んだ妖(アヤカシ)…「式神」と共に、世に仇を成す悪鬼羅刹を討ち、代々人々の平和を守ってきた。
そして、この世の闇を統べる魔王が淫魔へと肩代わりし、闇に住まう者どものほぼ全てが美女の姿となって人間と友好を結び、天下泰平の世が訪れた今でも彼らは平和を守り続けている。
先程述べた通り、魔王の影響力は絶大で「ほぼ全て」の妖は美女となった。
しかし、「ほぼ全て」である。
あまりの邪悪さに美女とならなかった残党は、かつての魔王の時代の如く傍若無人に力を振るい、再び世に仇を成している。
力や知恵に優れた妖が味方になった事で、いくらか脅威は防げているが、彼女らの力を以てしても及ばぬ事も度々。
圧倒的な悪の力の前では、努力、友情、愛、絆すら容易く踏みにじられてしまう事もある。
だがしかし、それでも信じ続けるのだ。くよくよするな。惑わされるな。
ただひたすら、足掻き、信じ続けろ。
その想いに応え、彼ら陰陽師が駆けつけてくれるのだから!
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「はっ!せい!どう!」
「甘いぞ清明(せいめい)!その程度の力では及ばぬぞ!」
とある和風の屋敷の庭にて。
黒い狩衣を身に着け、烏帽子を被った男と彼の息子である中性的な容姿の少年が向き合い、激闘を繰り広げていた。
男の周囲には、紙でできた式神が無数に浮遊しており、一体一体が少年に襲い掛かってくる。
ビシャリビシャリと音を立て、紙人形の体当たりが炸裂した少年は悲鳴を上げて膝をついてしまうものの、すかさず自身も札を使って雷撃を呼び寄せた。
ズドンと凄まじい音が響き、男の周りに漂う紙人形の4分の1を焼き払う。
しかし、男は顔色一つ変えずに残りの紙人形を一塊の群れへと固め、少年へと突撃させた。
念力による疲労と、紙人形にチクチク体当たりされた痛みで満足に攻撃をよけることができず、少年は地面に転がされてしまった。
「うっ…ううう…」
少年は、己の無力さに絶望して涙を流しそうになる。
だがしかし、寸前でこらえた。敬愛する父の想いに応えるべく、そして、「式神」に認められる程の心を身に着ける為に。
「頭のいいお前の事だから分かっているとは思うが、父さんお前が嫌いで厳しくしているんじゃない。むしろお前の事が大好きだからそうしているんだ。」
目の周りを一こすりし、立ち上がろうとした息子に男…「一刻堂鬼太郎(いっこくどうきたろう)」は手を差し伸べる。
少年…「一刻堂清明(いっこくどうせいめい)」はためらうものの、ゆっくりと父の手を掴み、立ち上がった。
「悪い妖は手加減しないで襲ってくるんだ。父さんはな、大好きなお前に死んでほしくない。だからこそこうやって厳しくしてるんだ。」
「それでも僕、修行は嫌いにならないよ!だって、僕もお父さんの事大好きだし、いつかお父さんもお母さんも守ってあげられるほど強くなりたいもん!」
「はっはっは!それは助かるな!」
しっかり者だとは分かっていたが、ここまでだとは思ってもいなかった鬼太郎は感心してしまい、思わず笑い声をあげてしまった。
それほど、息子の成長が嬉しかったのである。
「それにね、早く式神様と友達になりたいんだ!式神様って強い人が好きなんでしょ?」
「そうだな。式神様は正義の味方だ。だから、困っている人を助けたり、悪い奴らをやっつけたりと、一緒に良い事ができる友達を欲しがっているのさ。」
「うん!ぼくの式神様になる妖さんは、すっごく強い人が好きなんでしょ?だったら急いで強くならなきゃ!お父さん!もう一回僕と戦って!一生のお願い!」
普段ワガママなど一切言わない清明だが、この時ばかりはと全力で父にねだってくる。
彼ぐらいの年で、そういった事ワガママを言うのは珍しいだろう。
「清明。たしかに父さんと戦えば、お前はもっと強くなるだろう。だけど、無理をしてケガをしちゃうかもしれない。いくら式神様だってお前にケガはして欲しくないんだよ。」
「わかった…式神様のためだね…今日は修行止めるよ…」
落ち込む息子を見かね、鬼太郎は彼の頭をなでてやる。
「だけど、その代わり今日のご飯は母さんに好きな物たくさん作ってもらえるように頼んでおくぞ!」
「ほんと!?ありがとう!」
先程まで、殺し合いの如く激しく争っていた事がまるで嘘のように、親子は仲睦まじく縁側に上がり、仲良く夕焼けの空を見上げていた。
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それから時が流れて数年後。
清明は16歳になり、高校生1年生となっていた。
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