〜新魔王歴1019年 親魔領ヒアット〜
さらに月日が経って20年後。
初めて勇者育成計画が執行された魔物領の都市「ヒアット」。
そこにある訓練所では春の陽気と晴天の下、彼らを指導する魔界勇者と新たな勇者候補4人が鍛錬を励んでいた。
担当教官は人間の女性で、頭には羽根の大きいクリーム色のリボン、体には淡いピンク色の服を身に纏った麗しくも愛らしい雰囲気だ。
「はい!そこ!そこです!そうですよ!その調子です!」
“愛の伝道師 クーク・ミミー“
教え子の1人目は、人間の男子で体つきは長身で筋肉質、紺色と黄緑色のカラーリングの部道着を着ている。
彼が力を込めて殴りつけたサンドバッグは、殴られた部分が赤熱化した後に大爆発を起こして爆発四散した。
「ドォウッ!デェラァッ!」
“見習い武道家 アルム・オブシディア”
2人目は純白の鎧を身につけた氷の女王で、冷気を纏う琥珀色のサーベルを振るい、白銀のマントをたなびかせて舞うように…標的のタルに攻撃を仕掛けていく。
わずかな間に数十回も切り刻まれたタルはビシリビシリと切れ込みが入ってゆき、そこから氷柱が突き出して破裂する。
「フン。」
“見習い剣士 ベル・ブリザロス“
3人目はの海のように青いローブを着た人間の男子で、背は1人目の候補生アルムよりも少し高いものの、体つきはスリムで顔も女性的だ。
魔法で宙に浮かせた的に向かって、右手から水の力で生み出した高水圧のムチを放って真っ二つに割り、続いて呪文を詠唱して自分の周囲に雷の塊を複数を作り出す。
そして、その塊を真っ二つになった的に向かって放って消し飛ばした。
「…………ハッ!」
“見習い魔術師 ルキア・ライブリッツ“
そして4人目は…………黒と赤のカラーリングの剣士服を着た中肉中背のヘルハウンドだが、漆黒の西洋剣を振り上げて木偶人形に斬りかかっている……………が、素っ頓狂な掛け声を上げてまで放つ全力の攻撃は全部空振り三振…それどころか十振くらいという有様。
木偶人形には傷一つ付いておらず、新品と見間違う程である。
「てぇぇぇぇぇぇ…えあっ!?う、うわぁっ!」
そしてついに思い切り振りかぶった勢いで足を取られ、そのまま頭からズデンとすっ転んでしまった。
全くの素人である者から見ても危なっかしい体勢だったが、やはりこうなる他なかったようだ。
「うー…いててててて…」
“見習い「勇者」 ドラゴルフ・ジオーガ“
上記の二つ名にあるように、彼女はパーティーの要である「勇者」だ。
それなのに、この情けない体たらくなのである。
「みなさん相変わらず良くできていますねー!ハナマルですっ!」
3人の華麗な技と1人の無様な姿を見てクークはふっくらとした笑みをこぼす。
全員が精一杯頑張っている姿を、まるで自分の成長のように喜ぶ様はまさに教育者の鏡だ。
「皆さん、今日の訓練はここまでですよ!お疲れ様でしたー!」
「ハイッ!ありがとうございましたッス先生!」
「次のご指導もよろしくお願いしますね、先生。」
「先生、本日はご指導ありがとうございました。」
「はーい!みなさん気をつけて寮に戻ってくださいね〜…………ドラゴルフさん。もう止めて良いですよ。大丈夫です。」
訓練終了の報告をして、3人からの感謝を聞き届けたクークは解散の合図をする前に………まだ1人必死になって練習を続けているドラゴルフに声をかける。
「でぇーい!やー!」
「あのー…そこまで、そこまでですよ。」
何度外しても諦めずに標的に突撃していくドラゴルフの健闘も虚しく、剣は木偶人形に一回も当たらず、またしても頭から派手にずっこけてしまった所で彼女は名残惜しげに手を止めた。
「す、すいません!クーク先生…」
「良いんですよ。ドラゴルフさんがよく頑張っているという事は私は分かっています。」
「はい…………」
クークに慰められ、シュンと項垂れているドラゴルフ。
哀愁漂うその姿はこのクラスの「日常風景」と化している。
「ドラゴルフ…お前という奴は相変わらずの鈍さだな。本当にあのヘルハウンドなのかと疑問に思うぞ。あれで勇者になろうなどと………舐めているのか?」
「おいベル!良い加減にしろよ!アイツだって一生懸命にやってんだよ!」
ドラゴルフに向かって冷淡に言い放つベルに対し、アルムが割って入る。
努力と健気さを何よりも重んじる彼は彼女の発言に意を唱えたが、当のベル本人はどこ吹く風。謝罪や撤回は勿論しない気だ。
「一生懸命だからどうしたというのだ。頑張ったけど何もできませんでした……で済ませられるほど勇者は甘くない。」
「でもよぉ…………」
「勇者は子供向けの絵
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