「かかれェーーーーーッ!」
黒煙が立ち上り、火薬のツンとした臭いが漂う戦場。
銀色の髪と鱗のリザードマン、シルヴィは愛刀を振り上げ、自らが指揮する部隊を鼓舞した。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
「やってやるーーーっ!」
勇猛な兵士達は声を張り上げ、突き進む。
軍隊の誇り、戦果、恋人、家族………
様々な思いを胸に抱いた彼らの前に立ち塞がるは、象ほどの大きさがあるヒヒ……いや、ヒヒのような何かだ。
体に毛皮は無く、代わりに木で出来た装甲に覆われており、口の中には金属製の鋭い歯が並んでいる。
「ギァァァァァーッ!」
「ぐあっ!」
「うぐぅ!」
立ち向かって行った兵士達は、殴られて吹き飛ばされたり、掴み上げられて叩きつけられて倒されていく。
「くっ………!こいつらは一体何なんだ…………!」
シルヴィは唇を噛み締めた。
得体の知れぬ敵に対する不安、部下が痛めつけられている事への憤り……昂ぶる感情を全て堪え、自分の部隊を指揮しつつ、敵を倒すことに集中する。
場面は変わり、ここから時は少し遡る。
シルヴィの部隊、エルノール国迎撃隊は隣の反魔物国、パペッツァ帝国から送り出されてくる侵略軍を撃退したばかりだった。
この光景は日常茶飯事で、勝敗はいつもパペッツァ帝国軍が打ち負かされてしまうのが常だ。
自分だけ逃げ出していく将校を除いた者全員が捕虜にされ、エルノールの新たな住民として加わるのが一種のお約束である。
テロリストや凶悪犯、盗賊を撃退する程度の小規模部隊である迎撃隊にアッサリ負かされてしまう軍隊を寄越すパペッツァ帝国の事を、エルノール国はせいぜいちょっかいを出してくる所程度にしか認識しておらず、お気楽な国民性も相まり脅威として見なさないでいた。
簡単に言うと、エルノール国民が「パペッツァ帝国が攻めて来た!」と聞いても、「またパペッツァか」「今日は結婚式場が儲かるな〜」としか思わない様なものだ。
エルノール国迎撃隊もこの事態に慣れ、いつも通りサクッと倒して早く引き上げようという感じで戦いに望んだ。
「戦いで油断は禁物」という信念の持ち主のシルヴィでも、「今回も自分達が勝つ」と信じていた。
結果は、彼女と彼女の部下達の予想通りエルノール国迎撃隊の圧勝に終わった。
捕虜を確保し終え、国に帰って勝利の宴を開こうとしたその時。
今まで経験した事のない、未特有の事態がエルノール国迎撃隊に襲い掛かる事になる。
「ギャオーーーーゥッ!」
突如地面を突き破り、先程のヒヒ達が現れたのだ!
「な、何だ!?」
突然の事態に迎撃隊は激しく狼狽え始めるが、シルヴィがすかさず一喝した事により陣形を立て直す。
「やぁやぁ!エルノール国の迎撃隊の皆さん!コイツらは初めてお目にかかるかなぁ?」
ニヤニヤといやらしく笑う男、逃げ出した筈の将校が迎撃隊の前に現れた。
彼の態度や言動はどれも自信を感じさせるものがあり、その自信の源となっているのは間違いなくあのヒヒ達だろう。
「貴様、後ろにいる奴等は一体何なんだ!」
「一言で言うなら、新兵器だね。お前達を倒せる力を持った。」
「我々を?」
「そうさ!いずれはエルノールを攻め落とすのに使われるであろうコイツらの雄姿、とくと目に焼き付けておきなァ!行け!」
将校は片手に持った黒い結晶をシルヴィ達の方に向けた。
振りかざされた結晶はほのかに紫色の光を出し始め、眩い閃光を一瞬放つ。
すると、ヒヒ達はスイッチが入ったかのように目をギラリと光らせ、迎撃隊に襲い掛かったのだ!
負けじとシルヴィも部下に指示を出してヒヒ達に突撃させたのだった…
これが、この物語の冒頭に至るまでの経緯だ。
さて、また場面を変え、冒頭から少し後の物語…本編に移ろう。
「うわぁぁぁぁ〜〜〜っ!」
「おか〜〜〜ちゃ〜〜〜ん!」
「たすけてぇぇぇぇ〜〜〜!」
3人がかりで立ち向かって行ったオーガの兵士がヒヒの腕の一振りで投げ飛ばされ、地面に叩きつけられた。
幸い3人とも気絶で済んでおり、仲間達に抱えられて陣営に避難させられていく。
「ぐっ………!これほどまでとは………!」
迎撃隊はわずか数分とも経たぬうちに窮地に陥っていた。
兵士は7割程も戦闘不能(死んではおらず、気絶)にされてしまい、切り札の大砲もあらかた破壊されてしまっている。
幸い、ヒヒは二頭程倒したのだが、いずれも大砲や実力のある兵の渾身の一撃のダメージを少しづつ加えてやっと倒したものであり、残りは数十体程もいる。
「迎撃隊の皆さんよぉ!いい加減降参した方が良いんじゃないのか!え?」
「そうはいくか!私達は最後まで戦い抜いてやる!」
将校の挑発に乗るかのよ
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