「礼の件ですが、三日後の納期には間に合いそうで…」
「納期は明日だと言った筈だ!そんな調子じゃ終わらねぇだろうが!やる気あんのか!てめぇ!」
「も、申し訳ありませんっ!」
とある会社のオフィス。
若い男性社員を、黒いスーツに赤いネクタイを着けた中年男性社員が怒鳴り散らしていた。
「おい、止めとけ。真に受ける必要はねーよ。こんな奴の言うことなんか聞かなくて良いって。」
「高木部長、お言葉ですがそれは納期を三日後と明日を勘違いした貴方に非があるのでは?」
同じく作業をしていたドワーフとスキュラの社員が口を挟み、若い男性社員を庇う。
「先輩…」
「何だ?お前ら。女の腐ったような奴等が俺に一丁前にこんなこと言うなんて、随分と威勢が良いじゃねぇか。」
「貴方は高崎くんの納期を二日前に知らされている筈ですが、何故それを伝えなかったのでしょうか?」
「そ、それはだ!たまたま仕事が忙しくてそこまで手が回らなかっただけだ!」
「へー、一日中他の課の女の子達を飲みに誘いに声を掛けたり、お偉いさんにゴマすってるのが忙しいって言うんだー」
「なっ…!て、てめぇ!」
ドワーフの社員の一言で、高木は怒りを露にする。
拳を硬く握りしめ、今にも彼女達に殴りかからん勢いだ。
「というかさー、それってわざと高崎くんに情報伝えないことで怒鳴る口実作ってんじゃないんですかー?」
「だとすれば最低ですねー」
更にコピーを取ろうとしていたマーシャークの社員、高崎と呼ばれた若い男性社員の同期の男性社員が援護射撃を飛ばす。
「ナメやがって!俺を誰だと思っている!俺は部長だぞ!お前らより遥かに格上なんだ!」
「確かに、役職は確かに上ですが、貴方のような方は一度も上司と思ったこともありません。」
「い、言わせておけば…!この俺を怒らせた事を後悔させてやる!」
拳を振り上げ、デスクワークをしていたスキュラの社員に高木が殴り掛かろうとした、その時。
「喰らえ!高校時代に地元の空手大会で優勝した俺の必殺技を…」
「これは一体どういうことだ?」
修羅場の真っ只中に、新たに一人の男性社員がそこに現れた。
紺色のスーツを着こなし、清潔な感じが漂っている中肉中背の若めの男だ。
彼の名は竜寺(りゅうじ)ワタル。ここの部署の次長だ。
つい十年前まで彼はただのヒラ社員に過ぎず、ロクな仕事を回されずに茶汲みなどの雑用ばかりやらされていたことから、「お茶汲みの竜寺」と馬鹿にされていたダメ社員だったが、自身の地道な努力により評価を見直され、ここまで出世したのだ。
部下からの信頼も厚く、扱いも高木とは雲泥の差だ。
「次長!?」
「どうして!?」
「フン。茶汲みの分際でよくもまぁここまで登り詰めたもんだな。相変わらず気に食わない野郎だ。」
忌々しげな目で、高木は竜寺を睨み付ける。
「高木部長。俺のことはいくらでも悪く言っても構いません。ですが、俺の部下に危害を加えることは止めてください。」
「あぁん?」
「そんなに彼等を殴りたいのであれば、俺を殴って気持ちを落ち着けてはいかがですか。」
「次長!こんな奴なんかに、そんなことする必要なんかありませんよ!」
「 そうですよ!止めてください!」
「ほぉ〜、中々成長したじゃねぇか〜…褒美として、てめぇのスカした面が膨れ上がるまでぶん殴ってやる!」
高木が左手で竜寺の胸ぐらを掴み、右手で彼の顔面を殴ろうとする。
「高木君、お取り込みの最中悪いがちょっと私の所まで来て欲しい。」
「ほほほッ、本部長!?」
質の良いスーツを着ている太った壮年男性、本部長が高木を呼び止めた。
「君に重要な話がある。至急、来てくれ。」
「はい、仰せのままに!」
上からの圧力に弱い高木は、先程までの凶暴な態度をコロリと変え、恐縮した態度で本部長に付いて行った。
高木が連れられた先は彼のデスクで、その上には綺麗に整頓された書類が幾つか置いてある。
「本部長…私に話とは一体何でしょうか…」
「単刀直入に言おう。君はクビだ。」
「えええええっ!」
突然の宣告に、高木は顔面蒼白になった。
「ど、どうしてですか…!私はかれこれここが開設された当初から勤務しているんですよ!」
「ああ、確かに君はここができた時から働いていて、一度の欠勤も無い。しかし…だ…ここの所君の担当する所の売り上げが年々減少し、今では半分以下になってしまっているんだ。」
「ええっ!?」
「それに、わが社が労働環境の改善を押し進めるプロジェクトを施行しているのは知っているね。」
「はい、存じております。それが私のクビと関係あるのですか。」
「勿論、大有りだ。君の担当する部署ではハラ
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