天国の狂犬 (後編) 〜シリアスバスター おふざけ全開モード〜

 「それでは、お迎えに上がりますね。」
 「はい。」

 約束の朝。清潔な身なりの士官たちとラクノーはコボルド小屋の前に居た。
 士官たちが慎重に扉を開け、薄暗い室内に日の光が差す。

 「んみゅう……」
 「ふぁぁぁ……」
 「おひゃよぉ……」

 光の刺激により、小屋の中のコボルド達がモゾモゾと起床していく。

 「やぁみんな。昨日、ラクノーお兄ちゃんに楽しい場所に連れて行くって話して貰ったよね?」
 「おじさん達が、その楽しい場所に連れて行ってあげるよ。」
 「ほんとー?」
 「やったー!」

 士官たちの誘導により、コボルド達は数十人ごとに用意された魔方陣の上へと乗り、教会へと転送されていった。

 「おにいちゃーん!ばいばーい!」
 「たのしくあそんでくるよー!」

 この後に起きることも知らずに、無垢なコボルド達は魔方陣へと吸い込まれていく。
 そんな彼女らを、ラクノーはただ笑顔で見送るしかなかった。

 「……うーん、なんかおっきいおへやだなー」
 「そうだねー」
 「ぼくたちのおうちよりきれいだねー」

 天井も床も真っ白な無機質な部屋に、コボルド達は転送された。

 「あっ、あれ、なんだろー?」
 「んー?どれどれー?」

 一人の声を聞いたコボルド達は一斉に天井を見上げる。
 そこには、たくさん穴の開いた球体状の機関が逆さに設置されていた。

 「あたらしいおもちゃかな?」
 「おいしいくだものかもよー?」

 純粋な子犬たちは機関を見て、好き好きに個人の感想を述べていた。
 玩具、果物、お菓子、お友達……
 さまざまな可愛らしい憶測が飛び交っているが、これはそんなに可愛らしいものではない。
 あの機関は、霧状にした聖なる魔力を噴出するものだ。
 噴出される魔力は特殊なもので、自動で近くの物体に吸い寄せられるように加工してある。
 本来は武器やアイテムに使われるものだが、生物に使われることはなかった。
 一度だけ人間でその実験を行ったのだが、適正が合わずその対象が死亡してしまったからだ。
 しかし、国家の危機を救うために、その禁忌の試みは再び施行されることとなる。

 「それでは司祭様。始めましょう。」
 「うむ。分かった。」

 一方、司祭の部屋では、司祭、コブットリ助祭、そして国王のドーベルと将軍のジャーマンも加わり、映像用の水晶を通して部屋のコボルド達の様子を見ていた。

 「これは国の運命が関わっているモノだからな……故に国王たる私は見届けねばならん……このような残酷な行為でも……」
 「ドーベル陛下、彼女らの犠牲を無駄にしない為にも、このジャーマン、勝利を勝ち取って見せます。」
 「かたじけない、ジャーマン将軍。それでは皆の衆。心の準備は良いか。」
 「はい。」
 「御意。」
 「もちろんです。」

 司祭は机の上に半透明なパネル状の端末を出現させ、右下にある大きな赤いボタンを押した。

 「うー?」
 「どうしたのー?」
 「あそこからキラキラがでているねー」

 上の機関から、聖の魔力が噴き出した。

 「うわー!きれーい!」
 「なんだろ?このきらきら、あたちのからだにはいってくよー?」
 「ほんとだー!おもしろーい!」

 自身の体内に吸収されていく魔力を見ておおはしゃぎするコボルド達。
 頭、手、体、足、尻尾……彼女らの体の至る所にに魔力が行き渡っていく。 
 「司祭殿。特に変化は無さそうだな。」
 「今の所は、ですね。」
 「そうだな……ん!?」
 「どうしましたか。陛下。」
 「し、司祭殿!皆!あれを見るのだ!」
 「どれ……!?」

 実験を始めて数十分。ドーベル国王が驚いた様子で水晶に映っていたコボルドの一匹を指差した。
  ただならぬ様子に、三人はドーベル国王が指差した方向を見た。

 「こ、これは………………!」

 そこには、一匹のコボルドが居た。
 彼女は、皮膚から毛皮まで純白に染まり、体中からほのかな白い光を放っていた。

 「わー!キラキラをつかまえてたら、まっしろになっちゃった!」
 「すごーい!かっこいいー!」
 「ボクもキラキラをたくさんつかまえてかっこよくなるぞー!」
 「わたしもー!キラキラつかまえるー!」

 コボルド達は、あの個体のようになるべく積極的に魔力を集めようと、我先に機関の下に集まる。

 「むー!わたしがさきー!」
 「あたちのほうがはやかったー!」

 二匹が魔力をめぐって喧嘩を始めてしまった。
 子供のケンカというものはこういう単純なことがキッカケで起きやすい。

 「ほらほら〜ケンカしないの〜ふたりともきっとボクみたいになれるよ〜」
 「…そっか。ごめんねー」
 「こっちこそ、ごめんねー」

 二番目に白くなった個体が、二匹の間に割って
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