夜の
#32363;華街。
街頭や装飾の光が煌めく光景はとても妖しい雰囲気を醸し出している。
今日もそこは、その妖しさに魅せられた人々で溢れかえっていた。
「ヒヒヒヒ、良いじゃん良いじゃん。」
「や、やめてください!」
上品な制服を着た稲荷の女子高生に、一人のガラの悪いチンピラが絡んでいた。
彼女の嫌がっている態度にも関わらず、チンピラは女子高生の肩を掴む。
「好きな場所行きたかったら言いなよ?ゲーセン?カラオケ?それともラブホ?」
「い、いや…」
チンピラが無理矢理女子高生の手を引っ張ろうとしたその時。
「おい!その手を放せ!」
「あぁん?」
女子高生を無理矢理連れまわそうとするチンピラに、一人の男が声を上げた。
男の容姿は、顔立ちが整っており、身長も高く、今どきのファッションを着こなしている爽やかなイケメンといった所だ。
「なんだぁ?てめぇ?痛い目に遭いてぇようだな!」
声を荒げてチンピラが拳を振り上げて殴り掛かる。
「フン!遅いんだよ!」
振りかぶられた拳をイケメンは避け、チンピラの顔面にパンチを打ち込んだ。
「ギャアッ!」
顔面にキツい一発を貰ったチンピラはものの見事にダウンしてしまう。
仰向けの大の字になって倒れている所が何とも言えない哀れさを醸し出している。
「だ、大丈夫ですか?」
「何、これくらいどうってことないよ。」
心配そうに声を掛ける女子高生に、イケメンは爽やかスマイルで応える。
「助けて頂いて、ありがとうございました。」
「いやいや、俺はただ、女の子に寄ってたかって悪さするようなヤツが許せなかっただけさ。」
「あっ、あのっ!私っ!あなたの、男らしさに惚れてしまいましたっ!ぜっ、是非付き合ってください!」
「フフ、別に構わないよ。ほら、付いてきて。」
「……はいっ!」
イケメンと女子高生は、良い感じになって繁華街の出口へと歩みを進めた。
普通なら、この二人がイチャラブする展開になるが、この話はそうはいかない。
なぜならこの話の主人公は、イケメンと女子高生のカップルではなく、先程イケメンにブッ倒されたチンピラだからだ。
「う、ぐぐぐ……」
頭を押さえながらよろめきつつ立ち上がるチンピラ、追手 内(ついて ない)。
「クソ……またかよ……」
身体に付いた埃を払い、ズキズキと痛む鼻を左手で押さえる。
残った右手でポケットに手を入れると、いつも入れているお気に入りの財布(980円)が無い。
「ノビてる隙に財布がパクられてやがる……チクショウ!」
追手は女を引っかける邪魔をされたことと、気絶している間に財布を盗まれてしまった悔しさで地団駄を踏む。
「ここの所何もかも上手く行ってねぇ…最悪だ…」
忌々し気に自分の近況を口に出すと、追手はおぼつかない足取りで自分の家であるアパートへと戻る。
無機質なドアを開けた先はワンルームの部屋で、床にはクシャクシャに丸められたティッシュや菓子の袋、酒の缶といったゴミが散乱している。
足の踏み場も無いほど広がっているゴミを逆に足場にして、追手は冷蔵庫へと手を伸ばす。
「こういう時はやっぱ飲まねぇとやってらんねぇって…ねぇのかよ。クソッタレ。」
冷蔵庫の中は、空だ。
追手が求めていた酒はおろか食品が一つも見当たらない。
「酒どころかメシもねぇとはな……まぁ、前から酒飲むのをメシ代わりにしてたから仕方ねぇか。ギャハハハッ……」
追手は半ばヤケ気味に自嘲する。
「まったく、かつてのアク高一のワルがこのザマか…」
冷蔵庫に反射した自分の顔を見て、追手はふと自身の過去を回想した。
追手は幼い頃からのワルで、小学生の頃には飲酒や喫煙もしている。
彼の一番の黄金期は高校時代で、古今東西からあらゆる不良が集まる亜九島(あくとう)高校に進学した彼は、持ち前の胆力で下級生から上級生まで幅広い年齢層の手下を従え、教師を恫喝したり、喧嘩と抗争に明け暮れたりする悪行三昧の毎日を送っていた。
喧嘩の際には、自慢の武器の鉄パイプを振り回して戦場を駆けていたので自校や近隣の高校の生徒からは「パイプの追手」と呼ばれ恐れられた。
そんな毎日に、彼はとても満足していた。
だがしかし、時が経ち、成人して社会に出た時、現実を突きつけられることとなった。
学生時代はケンカの強さや運動の上手さで決められていた序列が、社会人では年収の多さ、学歴、家柄、礼儀などで決まるようになる。
当然、どれもお粗末な追手は爪弾きに遭い、馬鹿にされた。
せめて優しさや誠実さといった人徳があれば、まだ何とかなったかもしれないが、彼はそれすらも持っていない。
その為、追手
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